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やがて、タクシーを使って連れてこられたのはまさに大企業の社長がいそうなビルの前
「赤司っちは、やっぱりこういう所にいる訳っすか」
「黄瀬ちん、俺にも二人みたいにタイムリミットがあってね、そろそろ時間近いみたい、ぐらぐらするwww」
「え、ちょ!!??大丈夫なんすか!!??」
「うん、あんまり大丈夫じゃないから、早く赤ちんの所行こう」
そう言って黄瀬の腕をつかむと紫原はそのままビルの中を突っ切るように急ぎ足で登っていく
やがて、小さな部屋の一つの前にたどり着くと扉を開けて俺を押しこみ自分もその部屋に入る
「赤ちん、連れて、き、た…」
ガクンと崩れ落ちた体
それを支えたのは黒服の男達
「敦、お疲れ様。伝える事は、出来たのかい…?」
その声に黄瀬は思いっきりその声のする方向を向く
そこには、どの世界でも彼の味方でいようとしてくれた、変わらない赤司の姿があった
「まだ、まだ黄瀬ちん」
うわ言のように呟いた紫原の声に何も言えないまま黄瀬は視界の端にとらえた赤司から視点を紫原にうつし、しゃがみこむ
「紫原っちのうそつきっ…倒れないって言ったのにっ…!」
そう言うと、紫原はわずかに笑う
「タイムリミット、あるって、しょうが、ないじゃんwww」
「そう言う問題じゃないっすよっ…!!」
「ほ〜ら、黄瀬ちん泣かない、」
「…っス…」
「黄瀬ちん」
ふいにしゃがみこんだ腕を引きよせられ、左ほほに柔らかな、唇の感触
「え…?」
それが口づけだと分かる前に紫原は言葉を続ける
「黄瀬ちん、”俺”は、どの世界でも“黄瀬ちん”の事が大好きだよ。だから、どうか、幸せになって、ね?」
そして、茫然とした黄瀬の後ろを見て紫原は再び口を開く
「赤ちん、後はお願いね…」
そして、一瞬ふっと力が抜けたかと思うと紫原は視線を彷徨わせる
「…僕の部屋に運んでおいてくれ。じきに“桃井”という女性がやってくる、それまで決して触るな」
「はい」
紫原の巨体を抱えた黒服の男たちはそのまま紫原の体を連れていく
部屋に残されたのは、ついに黄瀬と赤司だけになった
部屋の中を沈黙が支配する
先に口を開いたのは赤司だった
「涼太。」
名前を呼ばれて、黄瀬は必死に涙をこらえながら赤司の方を見つめる
「そんな、泣きそうな顔しないでくれ」
赤司はわずかに困ったような表情を浮かべながら黄瀬の方にやってくるとそっと微笑む
「独りでたくさん、辛い思いをさせてすまない。すまなかった。」
そう言うと赤司は黄瀬を軽く抱きしめる
「もう、終わらせるんだ、この世界で全て終わらせるんだ。全てが終われば、“奇跡の世代の末っ子黄瀬涼太”として過ごしたあの世界がこの世界に混じる。僕達も、1つになって、お前たちを見守ってやれる。もうこの連鎖を終わらせよう。その為に、みんなリスクを負うのを承知で、準備をして、お前に伝えるべき事を伝えてきた。聞いてきたのだろう?皆の気持ちを」
その言葉に脳内にフラッシュバックスする、黒子、緑間、そして紫原の言葉、表情
たくさんの世界で見てきた、“黄瀬涼太”にとってかけがえのない大切な人たちの姿
大好きな、最愛の人の、姿
「涼太、俺が何とかできる限りの時間を稼ぐ。だから、“大輝”に伝えろ。お前がずっと心の奥で思ってた事全て伝えるんだ。終わらせよう??もう、お前達が理不尽な連鎖の中でお互い苦しむのを見たくはないんだ」
赤司は黄瀬を柔らかく抱きしめたままそう囁く
「赤司っち…っ…」
「僕には、他の皆と違ってタイムリミットはない。強いて言うなら、リスクを負う時がそのタイムリミットだ。だから、僕は先に涼太に言っておこう」
「…え??」
「涼太。」
「っ待って!!!待って赤司っち!!!リスクを負うのがっ、タイムリミットってっ…どう言う事っすかっ…!?」
「……僕は、他の皆を巻き込んでいるから。その分自由もきくんだ。だから与えられたリスクはそれにふさわしいように重い。でも涼太。お前が」
「っ…!!駄目っすっ!!!!そんな、」
黄瀬は赤司の言葉をさえぎるように叫ぶ
「そんな、赤司っちが犠牲になるなんて、駄目っすっ…!!!」
彼の頬には、先ほど紫原と約束したにもかかわらずこらえきれない様に涙がつたっていた
赤司は驚いたように目を見張る
「だが…僕は」
「どうしてっ…!!俺なんかのためにみんなリスクを背負ってくれたのは嬉しいっ…けどっ…!!そんな風に苦しむタイムリミットがあるなら、俺なんかほかっておいてよかったんっすよっ…!!!」
黄瀬は嫌だと、“赤司が傷つくのは嫌だ”とまるで駄々っ子のように泣き始める
呆然としていた赤司はやがて、黄瀬の背中を優しくあやすように撫でる
「涼太」
「嫌っすっ…!!嫌っすよっ…!!!もう青峰っちみたいに、俺の大好きな人たち苦しめたくなんてないっ…!!!」
聞く耳を持とうとしないまま黄瀬は首を振って泣き続ける
その状況にわずかに苦笑した赤司は再び
「涼太」
優しい声色で彼の名前を呼んだ
「涼太、お前はね、これからもっともっと幸せにならなくちゃいけないんだ」
唐突に赤司はそう言いだした
ぽかんとした黄瀬はその言葉に思わず顔をあげる
その先には何だか泣き出しそうな表情の赤司がいて
そして、その表情に気づいているのだろうか、赤司は口を開いて言葉を続けた
「あの世界の僕は、君にひどい事しか言えなかったし、何もしてやれなかった。お前が死んでしまって、世界を巡る前に僕は、あの世界でお前にあったんだ。その時本気で後悔したんだ、どうしてもっと気付いてやれなかった、どうしてもっと何とかしてやれなかった、と。巡り始めた世界の先でも、お前は僕を頼ってくれた。お前からしたら何度目か分からないが、今の涼太に2回目にあった世界の時点で僕は行動を起こしていた。もちろん、元々いた巡る前の世界の僕が、だ。その時点ではまだおそらく紫原には伝わっていなかったはずだ。テツヤは、分からない。僕はあの世界ではテツヤに会う事は出来なかったから。そして次にお前に会った時に、僕達はお前に事実を伝えそうになった、結果、強制的に僕 達の意識はシャットアウトされた」
赤司はそこまで一息に話す
そして少しだけ苦笑いを浮かべていった
「だから、お前に伝えられなかった。お前に伝えようとすれば僕達は必ず、あの幽霊に邪魔される。その世界の僕達ごと意識がシャットアウトされる。それじゃ意味がなかったんだ。だから真太郎にもテツヤにも敦にも、桃井にも、リスクを承知で全てを背負ってもらった。お前への思いは皆一緒だったから。」
そっと赤司は手を伸ばすと黄瀬の金色の髪をもてあそぶようにわずかにくしゃくしゃとする
「涼太、僕達はお前に笑っていて欲しかったんだ。」
黄瀬は首をかしげる、皆が好きだと、笑っていてくれと、幸せになってくれという、どうして??
黄瀬は口を開こうとする
しかしそれよりも早く赤司は苦笑しながら口を開いた
「その表情じゃ、ちゃんと意味が伝わってるのか微妙みたいだな。」
そして赤司はそっと黄瀬の右頬に顔を寄せると
”ちゅっ”
軽い口づけを落とした
「……え??」
ぽかんとした黄瀬を見て赤司は微笑む
「皆、お前が好きだったんだよ。大輝と同じ意味で、お前に惹かれていたんだ」
「………え?????」
今度こそ黄瀬は茫然とした
「青峰っちと同じ意味で、好き…?」
わずかに笑った赤司は頷く
「…ええぇ!!!?????」
驚愕のあまり彼の眼からすでに涙は止まりその瞳が大きく見開かれている
「まったくwwwあの世界の僕達は、涼太の事が大好きで大好きで、けれどね、お前が一番幸せそうに笑っているのは、大輝のそばだったから、だからみな自分の気持ちよりも涼太の幸せを優先させたんだ。なんだかんだと言いつつも、大輝も同じように涼太の事を愛していたしね」
赤司は笑いながらもそう言葉を続ける
「ち ょ、え、待って…え…????」
本気で驚いたような黄瀬の様子に赤司は面白そうに笑う
「涼太のことしか考えていなかったよ、あの世界の僕達はww」
そしてふっとその表情にかげがさす
「それでも、涼太を、大輝を、守ってやれなかった。やっと、幸せになれる、皆でそう安心したばかりだったのに。」
赤司は苦笑いを浮かべながらも呟くように漏らす
「まるでお前達は、何処かの物語の主人公達の様だ。付き合うまでにあれだけお互いに色々とあったからもう大丈夫だと思ったら、今度は巡る羽目に陥るなんて。」
「赤司っち…」
「僕の気苦労は絶えないね」
そう言って笑った赤司は何かに気づいたようにポケットから電子機器をとりだす
恐らくスマホだろうか、それを触ってみてから 赤司は微笑む
「ナイスタイミングだ、桃井から連絡がきた。」
「桃っち…?」
衝撃の告白に茫然としたままの黄瀬に赤司は立ち上がり手を差し出す
「行こう。お前にとっての、大切な相手に逢いに行くんだ」
「…っ!!!!!!!」
その表情がその言葉の意味を悟った瞬間にかたまる
赤司は黄瀬の手を握ると微笑んだ
「大丈夫だよ、涼太。僕が信じられないかい??」
そう不敵に微笑んだ赤司の顔を見て、黄瀬はそっと息を吐き出す
「…赤司っちが、みんなが、いろいろしてくれたんっすもんね」
「あぁ」
「なら、大丈夫っスね」
黄瀬は今までで一番の笑顔を浮かべる
「俺にとって、みんなは、最っ高の仲間っスから」
そう笑って見せた黄瀬に赤司は微笑む
「そうだな、僕達は“キセキ”の世代だ。だから、大丈夫だ」




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