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「どうしよう、緑間っちっ…嬉しいっ…」
そう呟いた黄瀬を見て緑間そっぽを向きながらも彼の金色の髪をなでる
「お前が思っているよりもずっと、あの馬鹿は、お前の事を大切にしていたのだよ。お前が思っているよりもきっとずっと、愛して、いたと思うのだよ」
「緑間っちっ…!!!!」
「…本当に、お前はどんなお前でも泣き虫なのだな…」
そう言った緑間の表情は黄瀬には涙で見えていなかったがとても寂しそうで同時にとても愛おしそうで
そして、どこまでも優しさにあふれている、そんな表情を浮かべていて、そして泣きじゃくる黄瀬の頭を優しくなでていた
やがて、少しだけ黄瀬が収まったように見えた頃、不意に緑間の表情がゆがむ
「き、せ。すまない、俺もそろそろ 時間の様なのだよ…黒子は、お前に、伝えると、言っていた…だから、俺も…言う」
そう言うと黄瀬の泣いている瞳に優しく口づける
そして緑間は微笑む
「俺は、お前の事が、これまでにないくらいには、気に入っていたのだよ。だから、幸せに、なるのだよ…」
”大丈夫”
そう呟いて緑間の体はかしぐ
その傾いた体をつかまえたのは黄瀬ではなく
黄瀬の後ろから不意に伸びた第3者の腕だった
「みどちんも、結構無茶するよね〜。まぁ…でも黄瀬ちんのために、一生懸命だったもんね」
その独特の喋り方に
涙にぬれた黄瀬の瞳はぼんやりとそのシルエットを捉える
「紫原、っち…?」
そう呟いた黄瀬の頭に大きくて優しい、そしてどこか甘い香りのする手が置かれる
「久しぶり、黄瀬ちん。」
彼の頭に置かれた、優しい手
覚えているものよりも少しだけ大きいが、それでも変わらず、甘い匂いのする、優しい手
「もー、みどちんも黒ちんもこんなに泣かせちゃってwwww黄瀬ちん泣き虫なんだからちゃんと、最後まで見ててあげなきゃじゃん―ww俺、そんなとこまで面倒みれないのにーwww」
そう言って何とものんびりと笑いながら、緑間の体を軽く持ち上げ、黒子の隣に寝かせる
「黒ちん、みどちん、お疲れ様」
そう呟くと、紫原は涙にぬれたままぼんやりとしている黄瀬の元にしゃがみこみ目線を合わせる
「黄瀬ちん??大丈夫??」
「むら、さき、ば、ら、っち…?」
「そうだよ〜」
そう言ってふんわりと浮かべられた笑顔は見た事のない優しい表情で
それでもどこか“黄瀬涼太”の知っている“紫原敦”の面影の残る表情で
やがて、黄瀬は目じりに残っていた涙を袖で拭うと、紫原に問いかける
「紫原っちも、俺の、ために?」
「うん」
その恐る恐ると言った黄瀬の問いにあっけらかんとした表情で頷く
しかしやがて黄瀬の表情を覗き込んだ紫原は彼らしくない何とも大人っぽい苦笑い、そう呼ばれる物を浮かべる
「黄瀬ちん、そんな泣きそうな顔しないでよ」
「だ、ってっ…!!!」
目の前で、意識を失って崩れ落ちた緑間と黒子の事がまだ色濃く残っているせいかその瞳は、再び怯えを浮かべている
「大丈夫だよ、黄瀬ちん。俺は、そんなに黄瀬ちんに関わってきてないから受け入れた後でもぶっ倒れるほどのリスクは負わないよ。俺の場合は少しの間だけ味覚と触覚がなくなるだけ。だから少しの間だけ身動きが制限されるんだよ、でもそれもすぐに治るよ、だから大丈夫だよ黄瀬ちん。そんな、泣きそうな顔、しないで」
そう言って再び紫原は黄瀬の頭にその手をのせると優しくなでる
黄瀬の頭をなでながらも紫原は言葉を続ける
「俺は、“黄瀬ちん”の元々いた世界の俺から情報を受け取ってる訳じゃなくて、間接的に赤ちんからもらってるから、負う リスクも少ない。その分、他の皆よりあの世界の人には近くないんだよ、だから少し違和感があったらごめんね、この世界の俺のままだからどうしても感じてしまうかもしれないけれど、俺以外の皆はちゃんと“黄瀬ちん”が元々いた巡り始める前の世界の自分から情報を受け継いでいるから。だから、黒ちんも、みどちんも、多分、俺がこれから会わせる赤ちんも違和感は俺よりはきっと少ないと思うよ」
そう一息に話しきった紫原は「ふ〜、俺ばっかり伝える事少ないからって、みんな説明役おしつけるってひどいよね〜。疲れちゃうじゃんも〜」
そう間延びしきったようにぽつりと愚痴を漏らして不満そうな表情を浮かべる
「まいう棒買い損ねたし…」
「ぶっっwwwwwww」
「ちょ、何黄瀬ちん???いき なり笑わないでくんない???」
「ご、ごめんっすよ、紫原っちwwww」
「絶対思ってないでしょー」
そう不満そうな表情を浮かべた紫原を笑いながらも見た黄瀬はそっと微笑む
「紫原っちも、変わらない。どこの世界でも紫原っちっすね」
そう言った黄瀬を見て紫原は驚いたように目を丸くする
「うん、でも安心したッス。ありがとうっすね」
そう笑ってみせた黄瀬を見て紫原は、不意にその体を立ち上がらせると黄瀬の事を思いっきり抱き締める

「紫原っち、痛いwwww」
そう伝えると紫原はその力を緩めたものの、黄瀬を腕からのがそうとはせずに口を開く
「一杯苦しんだって聞いたのに、それでもそんな風に笑える。黄瀬ちん、凄いね」
まるで囁くように黄瀬にしか聞こえない声で呟く
「だから、きっとそんな強さに、“あの世界の俺”も惹かれたのかな。」
「え??」
そう聞き返した黄瀬を見て笑った紫原は腕を放すと、黄瀬の前に座り今度はまじめな表情を浮かべる
「俺のする事はね、情報じゃなくて、行動なの。みどちんや黒ちんは見ての通り、この場所から動かせないような状況になるリスクを負う、だからその場所で黄瀬と”青峰”を会わせたらだめだ、もしまた何かが起きた時に二人を巻き込む事だけは避けたいっていう赤 ちんの指示で、今赤ちんと連絡がついてかつ、赤ちんの居場所を知らされているのは俺だけなの。そして、俺の仕事は、そこに黄瀬ちんを連れていく事。」
「そこにいるんっすか…?」
「??誰が…あぁ、“峰ちん”??」
その言葉にわずかにびくりと肩を震わせながらも黄瀬は頷く
「いないよ。そっちは、俺が呼ばれたと同時に桃ちんが動いてる」
「桃っちも、まきこんじゃってるんっすか…!!」
「黄瀬ちん、そんな言い方したら怒られちゃうよwww」
「え??」
「桃ちんだって、リスクを負うんだよ、女の子なのにそれをものともしないで、大ちゃんの意思をきちんと伝えもさせないなんて間違ってるって言って黒ちんとおんなじように黄瀬ちんを助けたいって、そうやって協力する事もリスクを負う 事も受け入れたんだから。」
「・・・・ッ、桃っちっ…!」
「黄瀬ちん、ほんと泣き虫だな〜、でもまだ泣いちゃ駄〜目」
無理やり上を向かされたおかげか溢れそうになっていた涙が驚きで止まる
「さ、黄瀬ちん、立って。いくよ。泣くのは、峰ちんに逢ってから、でしょう??」
そう言って笑って見せる紫原に黄瀬はぽかんと口を開けていたもののやがてその表情を引き締め頷く
「そう、っすよね…」
それから紫原に促されて立ち上がり、不意に心配そうに後ろを振り返る
「あの、紫原っち…」
「黒ちんは、たぶん今は目を覚ませないと思うけど、みどちんは多分もう起きてるよ」
黄瀬の聞きたい事を丸で分かっていたかのように紫原は答える
その言葉に驚いて目を見張ると黄瀬は再び 後ろを振り返る
「緑間っち、黒子っち…?」
「黒子は、俺が見ているから。安心していくのだよ」
そう緑間の声が横になっているそのベッドから聞こえる
「紫原、早く、いってやれ。ずっと、泣いてたんだ、やっと願いを叶えてやれる、早く、いってやれ」
そう緑間の声が聞こえて黄瀬は再び泣き出しそうな衝動に襲われるものの何とか耐える
それを見計らったかのように紫原は「じゃ行ってきまーす」と再びどこか気の抜けるノリで病室に声をかけて最初に入ってきた方ではない関係者入口の方から黄瀬を連れだした
「あ、黄瀬ちん。病室前で待ってたの、黒ちんの妹だよね??あの子にはちゃんと先に事情が伝えてあるから、安心してね」
心配そうに後ろを振り返っていた黄瀬を見て紫原は忘れていたとでも言わんばかりにその情報を伝える
黄瀬は苦笑いしながら
「紫原っちww早く言って欲しいっすよ…ww」
再びその目を前に向けた




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