16



彼の意識はずっとあるままで再び真っ暗空間にいた
彼は膝を抱えてうずくまる

青と赤の綺麗な対比を、この短期間でどれだけ見てきたのだろうか
目の前で、消えていくのが“青峰”であっても“自分”であっても、辛い事に変わりはない
「黄瀬」には、もう限界だった
優しい「彼」には、もう限界だったのだ
(ねぇ、青峰っち、もう限界っすよ…。)
(もう、俺疲れちゃったっすよっ…)
今回の周回で「彼」は気付いた
「青峰」に「黄瀬」がしなければいけない事
かつて、巡る前までフラッシュバックした記憶の中に答えはあって
それは、とても簡単だった事
巡る前の「黄瀬涼太」にとっては、とても簡単だった事
巡る前の「黄瀬涼太」にはできなかった事、否しなかった事
そして今の「彼」にできる事、しなければいけない事
だけど今の「彼」には辛い事
(青峰っちっ…)
短期間で「死」を体験し、間近で一番大切な命が自分のせいで奪われていくのを見続けた黄瀬
元来、優しい性格を持ったバカ正直な彼にとっては辛すぎる繰り返し
彼の中ではもう限界がとっくの昔に来ていた
それでも彼は、必死に思い浮かべた
何度も目の前で青峰の表情が抜けて呆然としたまま…きっと意味も分からないまま、「彼の体」が死んでいくのに驚いた表情
恐らく、「青峰」はどの世界でも知らない
「黄瀬」がいる限り
きっと「青峰」は理不尽にも殺され続ける
俺は周回を続けていて、でも、伝えられなければ、会えなければ
俺の周回は続いて、代わりに「俺」に出会った「青峰」がすべて消えていってしまう

「黄瀬」のせいで「青峰」が訳も分からないまま理不尽に殺されるのだ
真っ暗やみの中で、死ぬ事を許されなくなってしまっている「彼」は嗚咽を漏らし謝罪を続ける

(ごめんっス…っ、俺が死んで終わればいいのにっ…!そんな事すらできないっ…!)
(何度も関係ない世界の「青峰っち」を巻き込んでっ…!ごめんっ…ごめんっス…っ!!)

やがて、いつもなら訪れないでくれと祈るまどろみが彼の体を襲った時
彼は涙ながらの瞳で決心する
(もう、終わらせるから。だから青峰っち、もう大丈夫っスよっ…)
(次で、おわれるように、俺頑張るね。青峰っち、だからどうか…)

”あんたは何も知らないで幸せに生きて”
そんな祈りを胸に黄瀬は再びそのまどろみの中に落ちていった

自分の体がストンと地についた気がして「彼」は目を開ける
「此処…」
「彼」の身なりは整っていた、しかし道路のど真ん中で、「彼」は目を覚ました
「また、巡ったんっすよね…」
やがて、彼は周りを見渡す
「誰もいないんじゃ、ここがどこか、聞きようもないっすよね…困ったなぁ…」
そう一人つぶやくと、「彼」はとりあえずといった感じで行動を開始した
ぶらぶらと道沿いに歩いて行くとやがて大通りらしきところに出る
目の前のテレビに見覚えのある赤色の髪が映った
「…赤司っち、この世界でも…どこでもすごいんっすね…」
かつて「黄瀬涼太」の主将で、絶対的な存在で、周回している最中に、彼が幾度も助けを求めた相手
(赤司っち、いつもいつも…)
「黄瀬君」
赤司の映っていた宣伝を流していたビルのスクリーンを見ながら懐かしい感傷に浸っていた時
優しい声が聞こえた
彼が、何度も救われた。話を聞いてくれた
優しい、水色の髪をした、大切な彼の仲間
「彼」はきょろきょろとあたりを見渡すものの、「その人」の姿らしきものは見つからない
「彼」はその表情に苦笑を浮かべた
「重症っすね…」
再び彼は歩きだす
目的地はない、ただ、「青峰」という存在を探して
ふらふらと
「…お兄さん。」
どれほど歩いたのだろう、不意に女の子の声が聞こえて反射的に「彼」はあたりを見渡す
近くにそれらしき姿はない
「…?」
「お兄さん」
やっぱり聞こえる
「彼」は再びあたりを見渡すと、ふと目の端にとまったのは占いと書いてある道端の露店
そして、今度はそこからはっきりと呼ばれた
「そこの金髪のお兄さん」
恐る恐る、黄瀬は周りを見渡し自分しかその場に金髪がいないことを確かめるとゆっくりと近づいて行く
「そうだよ、お兄さんです」
「あの…なんか用っスか…?」
「お兄さんは、何度も人の死を目にしているね??」
そう言われた瞬間「彼」の頭の中に赤い記憶がフラッシュバックする
「…っ!!!」
「あ、ごめんなさい。お兄さん、凄く、苦しそう。あのっ…もしよければ、私のお兄ちゃんにあいませんか?」
「…え・・・・?」
フードを外した彼女は少女と呼んでもおかしくない外見。そして
「黒子、っち…?」
「彼」の知っている仲間の一人とそっくりだったのだ
「あれ、どうして私の苗字…?」
「え…?」
「まぁ、今はいいです。それより、お兄さん。お願い。」
「え?」
不意に腕をつかまれる
「私のおにいちゃんは、お兄さんみたいな人を探して助けたいのだと、今霊媒師をしています。あなた、何かにとりつかれて死ねなくなってるんですよね?」
「彼」の表情に驚きが浮かぶのを見ると少女はその腕をつかんだまま走りだした
「え!!???ちょ、待ってっ…!!」
「私のおにいちゃんが一度見せてくれた事があります。黄瀬涼太。それがあなたの名前ですよね?」
そう問われた黄瀬は驚愕の声を上げる
「どうしてっ…!!!!!」
しかし掴んだ手の力を抜く事なく少女は走り続ける
「私のおにいちゃんは“黒子テツヤ”と言います。あなたをずっと探しているんです。それこそ、なぜだか分からないのにある日突然そう言いだしてからずっと」
「黄瀬」の表情に驚愕が浮かぶ
「黒子、っちが、俺、を…?」
少女は頷くと口を開く
「お兄ちゃんがよく口癖のように“僕のまねなんてしないでいいんですよ”というんですが、私は好きで占いをしています。だから、あの恰好で占い師を装っていた事はお兄ちゃんに内緒にしてくださいね?」
「え??あ。はいっす」
「お兄ちゃんは、貴方の事を言いだしてからずっと言っているんです。”僕が、違う世界の僕が、彼らを引き離してしまった…僕は責任をとりたいんです、彼だけは、助けてあげたいんです…”と。なので、私は兄好きの妹として、「黄瀬涼太」と思われる貴方をお兄ちゃんの所に連れていきますね」
黒子がいっていたと言った言葉を聞いた瞬間
「待ってっ…!!!黒子っちも巡ってるんですかっ…!!!?????」
その言葉はまるで悲鳴のように口から飛び出した
自分だけだと、そう思っていたのに、もしかして同じように黒子も巡っているとしたら
同じように、黄瀬の様に目の前で誰かが死に続けたりしているのだとしたら
彼の顔が苦痛にゆがむ
「どうしてっ…、俺だけじゃなかったんスか…っ???」
「あ、お兄さん、つきまし、お兄ちゃん!!!!」
「??どうした、んで…黄瀬君、ですか、彼…?」
「お兄ちゃんが言っていた人だと思います。お兄さん一人でぶらぶらしていたので連れてきました」
「…っ!!!!!ありがとうございますっ…!」
目の前には優しい水色
少しだけ大人びたその表情
「黒子、っちっ…」
「黄瀬、君ですよね…?っやっと、黄瀬君に、会えたんですよね…?」
「黄瀬」は頷く
「黒子っち、もしかして、分かるんす、か…?」
黄瀬のその問いに黒子は答えない、ただ嬉しそうに涙ぐむ
「よかったっ…!まだ、いてくれてっ…!」
やがて、彼は涙をぬぐうと「黄瀬」をまっすぐに見つめて家の中に招き入れる
「来てください、君に伝えなければ。どうやら僕にもあまり時間は残されていないみたいです。だとしたら他の人たちもそうなる、その前に早く…!!!」
その黒子の必死さに「黄瀬」は頷いた




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