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ふいに意識が遠のきそうになって無意識に彼は手を伸ばす
「…!!??黄瀬!!??おい!!!」
笠松の目からしたら唐突に意識を失ってふらりと傾いた彼が虚空に伸ばした手

「今吉さ…ってちょ!!!?????」
後ろから今吉を呼ぶ声、と同時に黄瀬の傾いた体をその腕が何とかつかまえる
「若松、ナイスキャッチや…」
「ちょ、なんすかこのイケメン(汗」
「今吉、どっか休むとこ。」
「笠松君、顔怖いで。心配なのは分かるんやけど、ちょっと落ち着き。若松、そのままその子抱えて裏庭連れてたってや。」
「え??あ、でも…」
ちらりと笠松の方をうかがう若松
「はよ、いき」
「な?!」「ええから!」
「あ、うす…」
若松が黄瀬を抱え直して去りゆく姿を見つめながら今吉は呟く
「笠松君、あん子な、多分きっとまた泣くで」
「は…?」
何も知らないはずの今吉が意味深にその言葉をまじめなトーンで呟く
「きっと…」

”どないしても、あの子が気付けな終わらん”

その言葉の意味はその場の誰にも、もちろん笠松にさえも理解は出来ず、何度か桐皇を訪れていた彼は先に「黄瀬」を連れていった若松の後を追ったのだった

一方若松はというと
とりあえず、木の陰になっている所まで「黄瀬涼太」を連れていきそこに寝転がらせる
その苦しそうな表情を見てどうしたものかと思案にふけっていると不意に彼が目を覚ました
「お、起きた」
「え??誰??」
「この学校のバスケ部員。お前の知り合いがうちの部長と知り合いみたいでな、いきなり倒れたお前をとりあえず、部長、今吉さんに言われて休めれるとこ連れてきただけだ」
「倒れ…?…!ごめんなさいっす!!!迷惑かけちゃったッすよね」
しゅんとした表情を浮かべる「黄瀬」を見つめた若松は優しい笑みを浮かべて彼の頭なでる
「良いぜ、別に。今吉さんとこのいとこのくそガキに比べりゃ全然ましだ」
「それって…」
「“青峰”ってやつなんだけどな、まじくっそうぜ―の、あいつ俺のが年上なのぜって―分かってね―だろう」
そう話す若松の表情は何とも苦々しげで、よくそいつの面倒を見させられるんだと愚痴に様にこぼしていた
それでもその表情か らは、うぜーけど、それでもすっげー奴なんだぜ?馬鹿だけど、そう言わんばかりに優しい表情をしていた
不意に背中にかげがさす

「おい若松。…なんだおまえホモだったのか?」
その声を聞いた瞬間、「黄瀬」の脳内が無意識のうちに全てをフラッシュバックさせる
「…出やがったなくそがきゃぁ…!!出会い頭に早々気色わり―ことほざきやがって…(ぴきぴき」

まだ、何も起きていない
それでも脳内にフラッシュバックする景色
「っ…!!」
「…?おい、どうした、大丈夫か…?」
目の前が赤に染まる気がした
真っ暗になる、君が笑う
その手が届かない

「…いや、だっ…!!!!!!!」
そうやっとの思いで絞り出した言葉 不意に視界に自分よりも幼い足が見えて
懐かしさを感じる体温が自分の肩に乗って
「なぁ、お前大丈夫か…?」
「黄瀬」の知っている「彼」より少しだけ幼い大好きな人の声が聞こえる
もう少しで視界に彼の姿が入ろうとした時に、彼の脳内が悲鳴を上げた
「いやだっ!!!!!!!!!!!!!」
突然悲鳴を上げた「黄瀬」に、若松とその少年。この世界の“青峰大輝”はびくりと立ちすくむ

「止めてっ!!!嫌っスいや、連れて行かないでッッっっ!!!!!!」
その伸ばした手を懐かしい体温が掴む
「おい!!!大丈夫か…?!」
「青峰っちっ…!!嫌だ、もう、もういかないでっ…!!おいて行かないでっ…!!!嫌だっ…!!!!!!!」
「黄瀬」は訳も分からずその掴まれた手にすがりついて懇願する様に必死に泣き叫ぶ
「なんで、おいちょ!!?????」
「黄瀬」の瞳に彼の姿が映った瞬間、「黄瀬」の手を青峰が掴んだ瞬間、「黄瀬」の頭は恐怖でいっぱいになる
それと同時に聞こえた言葉、見えた風景
後悔の募る、過去の「黄瀬涼太」の感情
その後ろの大切で、仕方ない愛おしい人があんなに苦しそうな表情をしていたのに
「そっか、俺、これが…」
ぼんやりと視線を彷徨わせながらもぼそりと呟いた「彼」に少年は口を開く
「なぁ、お前なんで」
「黄瀬ッ!!!!!」
しかしその声は新たな登場者によってさえぎられた
笠松の彼を呼ぶその声ではっと我にかえった様に目の前を見つめる「黄瀬」
今、「黄瀬」の目の前にはあれほど会いたいと願っていた”青峰”の、この世界の”青峰大輝”の姿
「大丈夫、なのか…?」
笠松のその一言で「黄瀬」は気付く
「生きて、る…?」
彼は自分の手をつかんだままぼうぜんとしながらも心配してくれている“青峰”の姿と自分を見比べる
「おわ…った…?」
「…っ黄s「な訳ねーだろバーカ」
掴まれた手
恐る恐る声の方を振り返る
「だってお前はまだ伝えてね―、まだ足りねーよ??」
ぺろりと妖艶な表情で舌舐めずりをした「青峰」
「言ったでしょう??君の目の前で、何度も殺してあげると」
“青峰大輝”だった、つい先ほどまで“青峰”だったその笑みが、その表情が、いびつなものに変わる
「青、峰…?」
「若松!!!離れぃ!!!!!!!」
その今吉の悲鳴に近い怒号に若松は反射的に「黄瀬」と「青峰」のそばを離れる
「なっ!!??」
「笠松君もいったらあかん!!!!!!」
黄瀬の元に行こうとする笠松を後ろから羽交い絞めにする今吉
「お前、事情しらね―だろう!!????」
「あかん!!!今の“青峰”は“青峰”とちゃう!!!!いったら、笠松君まで巻き込まれてしまう!!!!」
「いいんだよっ!!!!あいつがずっと苦しんでんだ!!!たった一人で、ずっと…!!!!」
「違うっ…!!違うんやッ!!!!」
外野が何かを話している
それでも、いびつな微笑みを浮かべた“青峰”にとらわれたまま動けない
「青峰っち…?」
そう、呼んだ「彼」に“青峰”は笑顔を浮かべる


「さよなら」


その言葉と共に、彼は自らの手で、どこからか取り出した金属片を頸動脈にあてる
「っ!!黄瀬見るなッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
笠松の悲鳴とほぼ同時に、“青峰”はその手を思いっきり引いた
赤、赤、赤
綺麗な、赤

目の前で崩れ落ちる、真っ赤な、愛しい、やっと会えた…


「もう、連れていかないでっ…って、言ったのに…っ…!嘘つき…っ…バカっ…!…っ…ごめんねっ…」

「黄瀬涼太」の意識は再び、真っ暗やみの中に沈んだのだ




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