14



彼が目を覚ましたのはまたしても同じ、真っ暗な空間だった
何もないただの真っ暗な空間
赤司達が、まるで全てを分かっているかのような言葉を言った
でも、巡っているのは「黄瀬涼太」であった俺だけのはずなのに
(青峰っちっ…!!わかんないっスよっ…もう分んないっ…)
答えがない事を知っていてもその言葉を止める事は出来なかった
(ねぇ、俺が青峰っち探さなければよかったの?でも、きっと俺は青峰っちに会って、何かをするまで巡り続けるんだよね?)
(どうしたらいいの??青峰っち、どうしたらいいんスか…っ?)
切実に必死に願ったら、彼は帝光に戻れた
けれど、また目の前で、形は違っても同じように彼の愛しい人は死んでしまった
その表情がはっきりと頭の中に残る
呆然とした表情
また、黄瀬は何よりも大切だった、会いたいと願っていた大切な相手が死んでいく様をまざまざと見せつけられた
どうしたらいい…
彼の頭の中は疑問でいっぱいだった
どうすれば巡るのが終わる
赤司の言っていた「あと少し」とはどれぐらいの事だ
分からなかった
全てがあやふやで、はっきりしているのは
「黄瀬涼太」が「青峰大輝」に会おうとすれば
必ず、どちらかが会った瞬間、もしくは会おうとした瞬間にその命を世界に奪われる
そして、黄瀬は一人でまた廻り続ける
やがて、必死に考えていた彼に再びあのまどろみが襲う
(もう巡りたくないのにっ…!)
そんな願いも空しく、彼は再びそのまどろみの中に落ちていった


「黄瀬ッ…!!黄瀬っ…!!おら起きろバカ!!!」
「イッテッ!!!!」
体に来た軽い衝撃に思わず反射でそう悲鳴をあげて「彼」は再び目を覚ます
目の前には見覚えのない顔
きょろきょろとあたりを見回す
「海、常…?」
そう呟いて、やがて思い出す
青峰が彼に教えてくれた、巡る前の「黄瀬涼太」が行く予定だった高校
「笠、松、先輩…?」
「??なんだよ、なんでそんなボケっとしてんだ?」
その言葉に不思議そうに首をかしげる
見覚えのないはずに、なぜだか広がる温かい気持ち
「…っておい!!!なんでいきなり泣いてんだよっ!!!???」
「わ―、笠松女の子…じゃなくてうちのエース泣かせた―www」
「何やってんだ、笠松(苦笑」
「お前、どうして泣いてんだよ!!???」
「先輩、達、だ…っ…」
「はぁ?????」
彼らがそろって訳が分からないという表情をする
「黄瀬」自身にもどうして涙が出るのかは分からなかった
それでも、ただ、先輩という存在がいて、自分が海常にいる
その事実に涙が止まらなかった
「黄瀬」本人の意思とは別の所で、まるで誰かが泣いているのを見てもらい泣きしてしまったような
そんな涙だった
あわてながらも心配をしてくれる人たち
俺が、巡らなければ会えた人たち
やがて
「大丈夫、っす…」
そう呟いて「黄瀬」は笑って見せる
「練習するっすよ」
その言葉に後ろから思いっきりはたかれる
「ばっか!今の今まで急に号泣しだした奴放って練習再開させられるか!!洗いざらい吐けっつの!!!」
「笠松、どこの吊るし上げ刑事だよwww」
「言葉が時代がかって(る)ですw」
「でも」
笠松をからかっていた一人のメンバーがまじめな表情になって「黄瀬」の方を振り向く
「心配してるのは事実だ。黄瀬、話してくれないか?」
「俺達は、お前に大概無茶をさせる事になる。思う事があるならちゃんと話す、最初にそうお互いで決めたはずだろう?」
そう言われて後ろで同級生らしき男も頷いた
笠松が「黄瀬」の頭をワシャワシャとすると
座りなおして彼を見つめた
「大丈夫だ」
その言葉に、変な安心感が生まれ
その日、「黄瀬涼太」だった「黄瀬涼太」は、海常のメンバーに巡っている事実を話した
あなた達の知っている黄瀬涼太ではない、ごめんなさい、と
信じてもらえるとは正直「黄瀬」自身も思ってはいなかった
全てを話し終わって黄瀬が「嘘みたいっしょ?でも、俺「黄瀬涼太」が全部色々な「俺」に入って体験した出来事なんスよ」そう笑ってみせた
すると、不意に笠松が立ち上がる
「黄瀬。」
「……」
「俺の知っている黄瀬涼太とは別物??どこでもいっしょなんだな、「黄瀬涼太」って人間はwww」
「え?」
「バカで、泣き虫で、それでも結局大好きな人のために泣ける。大切な人のために必死になれる。そんな優しい人間だよ。お前は、俺達の知っている「黄瀬涼太」ってやつとそっくりそのまま、同じだ」
そう笠松は微笑んで見せる
俯いていた先輩達の顔が上がる
皆の表情は優しくそして、皆が「頑張ったな」
そう声をかけてくれた
「黄瀬。行くぞ、青峰に会いに」
「・・・・・・・え?」
笠松のその唐突な言葉に「黄瀬」の眼は点になる
「お前がいた世界で、同級生だったよな、たしか?この世界では、俺の知り合いで桐皇って高校で主将やってる今吉ってやつのいとこなんだよ。「青峰大輝」ってやつ」
「え…?」
「悪いが、そいつはバスケをしていない。けど、話聞いた限りじゃすごい選手だったんだろ?だったら間違ってないはずだ」
「どう言う…」
「この世界の「青峰大輝」ってやつは中学入ってすぐに才能開花させたんだ。当時は凄い選手が現れたって有名人だったからな、今吉も苦労してたよ。けど中学の同級生か何かのもめ事に巻き込まれて、仲間守るために足ぶっ壊されてバスケやめたんだよ」
「……!!!!!!」
「お前が会うと、どっちが死ぬんだったか?だったら、とりあえずその姿だけでも俺が確認してくる、それをお前に見せてやるよ、ただし本人じゃなかったらもう1度探し直せばいい」
「でもっ…!」
「大事な俺達の「仲間」が、泣いてんだぞ?俺達は大人しく黙ってられるほど冷たくはないさ」
「っ…!!!」
「とりあえず、桐皇に向かおう。森山、小堀、後は頼んだぞ!!」
その言葉に先ほどまで話を聞いてくれていた二人が頷く
笠松は「黄瀬」の腕をつかんで歩きだした

数時間後
彼は再び見覚えのない学校の前に笠松とたたずんでいた
「あの、笠松、先…輩…?」
不安そうに名前を呼ぶと笠松はくるりとこちらを振り返る、そして頭をワシャワシャすると
「安心しろ、「青峰大輝」はここにはいない。今吉に確認取れて、お前の心の準備ができたらしか呼ばねーから」
だから、そんな不安そうな顔すんな
まるでそう言うように笑って見せた
その笑顔に、その頭に置かれた手に
その人の優しさを感じて、不思議と「黄瀬」は安心し始めていた

笠松が会わせてくれたのは、今吉翔一という男だった
「笠松君やない、どないしたん?こんなとこまで、そっちのエース様連れて」
笠松が声をかける前に今吉はこちらに気づきやってきた
「あー、お前のいとこに「青峰」って奴いるだろう?そいつの事、どこで知ったかわかんねーんだけど知り合いかもしれねーって言うんだよ、こいつ」
「はぁ、黄瀬君とあのアホが知り合い…」
「こいつ名前自信ねーからわかんね―らしいけど顔見たらわかるって言っててよ。お前確かケータイの中に画像入ってただろ?前に皆で集まったとかいってたやつ」
「あ〜…多分あるで。ちょっとまってや…」
そう言ってスポーツバッグのそばにケータイをとりに走る
響くバッシュの音
ボールの弾む音、掛け声
全てが彼が大好きな人に教えてもらったもので、彼が大好きだった…今も大好きで大好きでたまらない
「…?黄瀬??どうした?」
「黄瀬」の表情をふと振り返った拍子に見た笠松はそう尋ねる
「え??」
「無自覚か?すっげー楽しそうな表情してたぞ??ww」

「あ、あったで〜」
そう言って今吉はこちらにケータイを見せる
「…っ!!!」
そこには幼いながらも「黄瀬」の知っている「青峰大輝」の面影を持つ少年の姿
「その表情はビンゴみたいだな…」
「っ…!!!青峰、っち…っ…????」
「今吉、わり―けど何とか都合つけてこいつにそれ、会わせてやれね―か?」
「いや、かまへんけど…」
「早いほ―がいい…って黄瀬…?」
そう今吉に伝えようとした笠松の制服の裾を黄瀬が掴む
怪訝そうに振り返った笠松はその表情を見て苦笑いを浮かべる
「そんな、泣きそうな顔すんじゃねーよ」
「黄瀬」は首を振る
違う、そうじゃない。
怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・・!!!!!
目の前が真っ暗になる、また同じように繰り返したら??だってこの世界で「黄瀬」はまだ待ってくれと言っていた赤司に会っていない
「…っ!!!!」
怖い たった一つのその恐怖に心が悲鳴を上げる
怖いっ…!!!




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