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「彼」が目を覚ましたのは、再び真っ暗な空間だった
何もない、空間

(また、会えなかったッスね…)
彼は自分でも泣いているのかよく分からないままだった ただ悲しかった
一瞬視界に見えたあの見覚えのある優しい水色は、きっと黒子っち、そしてその隣にいたのは
(青峰っち)
会いたいと願って、やまなかった
けれどその表情すら見えなかった
その姿すら見る事は出来なかった
ねぇ、青峰っち
会いたいな…青峰っちに会わなきゃいけないんだよ??
なのに、どうして、こんなに会えないのかな…??
口元に苦い笑いが広がる

どこか分からない真っ暗な空間
その空間で再び、彼の意識はまどろむ
(また、生きるのか… ねぇ、青峰っち、今度はせめて一目でいいから、その姿を見せてね)
そんな切実な願いを胸に、彼は再びそのまどろみに体を任せた


「黄瀬」
懐かしい、その声で目が覚めた
彼のぼやけた視界に深い緑色が映る
「緑間…っち…?」
「その〜っちをやめろと言っているのだよ。講義が終わった。行くぞ」
ぼんやりとその姿を見ていた彼は不審に思ったのだろう
「緑間」はわずかに心配そうに「彼」を覗き込む
「…どうかしたのか?」
「なん、で…?」
「いや…」
緑間はプイッとそっぽを向くと「何でもないのだよ!!次の講義に遅れるのだよ!!」
そう言ってずんずんと先に行ってしまう
「また、大学生…か」
そう呟く
「巡って、るんだ…俺…」
「黄瀬〜??」
陽気な声が聞こえた
振り向いた先には緑間のそばに、黒髪の男性

「高尾…っち…?」
「行くっぞ〜。次の講義一緒だから俺も一緒させてね☆」
そう言って楽しそうに笑って見せる
黄瀬は戸惑いながらも頷く
するとそれを確認した高尾は緑間のそばにいき話し始める
彼は安心した
この世界では、二人はあの時みたいに引き離されていないんだと
少しだけ笑って自分自身の持っていたルーズリーフを見る
「俺、医学部進んだんっすか…!?うわ、この時代の俺怖…、超絶頭いいじゃん…」
それだけ呟くと少しだけ笑いながら、見覚えのある二人の姿を追った
緑間と高尾の後ろに追いついた「彼」は情報を収集し始める
どうやら、この時代の彼は今までの自分と同じく変わらずアホで定着しているようで演じる必要はないらしい
失礼な話だが
そしてこの世界で、どうやら高尾は「宮地先輩」という人と付き合っているらしい
「あれ、緑間っち…?」
そう不思議に思って自分のポケットを漁って見つけだしたケータイを触って緑間にメールで問いかける
返信は早かった
「高尾の事を好きなのは伝えていない。俺は、片想いでも隣にいられれば十分なのだよ」
そのメールを読んだ彼を見ると、うざったそうに口では高尾の事を拒否っていてもその目がとても愛しそうに彼の事を見つめていて…
その目を見て、彼は頭の中に存在し続けている、傍若無人な王様の、大好きな相手の事を思い出す

「あ、あのッ!!!」
次の講義を何とか眠らずに受けきってから、ガヤガヤと騒がしいキャンパス内を歩きながら黄瀬は思いきって二人に声をかける
二人は振り返り首をかしげる
「青峰大輝って、分かるっスか??」
その名前を聞いて二人は顔を見合わせる
二人は同じように首をかしげる
やがて緑間が言う
「俺は知らないが…」
「俺も知らないよ」
キョトンとした表情で二人はそれを否定する
「そう、っスか…」
目に見えて意気消沈した黄瀬を見て緑間が思案顔で口を開く
「詳しい事は分からないが、人を探すなら赤司に頼んだ方が早いだろう」
聞き覚えのある名前に思わず緑間を凝視する
「ど、どうしたのだよ!!???」
「真ちゃんwwww動揺しすぎwwwwww」
「お前もこの顔がどアップ真顔でいきなりあったら絶対ビビるのだよ!!!!!」
「あっははwwww黄瀬、美人だもんなwwwwwww」
「そう言う問題じゃない…」
「あ、あの赤司っちって、今連絡取れるっスか…?」
二人の会話を聞いて笑っていたもののやはり気になり二人に尋ねる
するとキョトンとしたように緑間と高尾は立ち止まる
(あ、やらかした…?)
彼らの知る「黄瀬」がどの様な人物か、何となく推測はできても人物関係まではまだ把握できていない
もしかしたら、実は赤司と凄く仲の良い世界だったかもしれない
だが、そんな不安は不要だったように高尾が「そう言えば…」と笑いだす
「そっかwww征ちゃんって、俺も真ちゃんも会ってるから知ってるけど、この大学で会った黄瀬は知らなくても当然だよなwwwww」
「そう言えば、そうだな…。すっかり俺達の間に黄瀬がいるのが普通になっていて忘れていたのだよ」
そう言うと緑間はケータイで電話をかけ始める
「!!??今かって、おいっ・・・・分かった!!!分かったのだよ!!!じゃぁ今から連れていくのだよ、後は任せてもいいんだな??…分かったと言っている、くれぐれも怖がらせるんじゃないのだよ!!!って…あいつは…待て!!意味が分からないのだよ!!!??」
呆れたように溜息をつきながら電話をしている緑間を見ていると高尾が教えてくれた
「真ちゃんと征ちゃんって腐れ縁でずっと小さい頃から仲がいいんだけどね、征ちゃんすっごい王様なんだwwwしかも他の人にも遠慮ないから征ちゃんが誰かに会うときは大概真ちゃんに全部お鉢が回ってくるのwwwwで、毎回征ちゃんに電話するとあんなおもしろい真ちゃんの姿が見れるってわけwww」
「高尾!!!余計な事を吹き込むな!!!」
いつの間に電話が終わったのだろうか
「いやーん、真ちゃんほんと俺には厳しいんだからぁ〜wwww」
そう笑いながら高尾は緑間と再び話し始める
「誰がお前だけ厳しくしているのだよ!!俺は元々こういう性格だ!!」
「はいはーい。今から征ちゃんとこ行くんっしょ??」
「そうなった。という訳で高尾、俺はこの後問題ないので抜けるがお前は大人しく次も講義を受けるのだよ」
「…次って……あいつのじゃん!!!!うっわ!!真ちゃんひっきょー!!!俺も行く!!!」
「お前は、この間そろそろ出ないと単位がやばいとぼやいていただろう!!!」
「だって、嫌だよ!!あの講義つまんねーんだもん!!!!」
「どうせその後は愛しの宮地先輩とデートなのだろう?大人しく1つ ぐら嫌な事をこなしてから行けばいいのだよ!!」
「へへっwww宮地先輩迎えに来てってちょっと待てお前、普通に黄瀬引きずっていこうとすんなよ!!!!」
「お前の惚気はもう聞きあきた、向こうにも時間がないとの話だから、俺達はここで抜けるのだよ」
そう言うと「へいへ―い」と気の抜けた声と共に高尾から「行ってら―」の声がかけられる
掴まれた腕が痛い
「緑間っち、手、痛い」
そう言うと緑間はその手を離してくれた
彼は無言で前を見つめていた
緑間に声をかける事は出来ずただ、時間と目に映る景色だけが流れていった
やがて、純和風の茶道本家の様な家の前につくと中からひょっこり着物姿の赤髪の男性がでてくる
「真太郎、4秒遅刻だ」
「4秒ぐらい大目に見るのだよ!!」
「うるさい、そっちの黄色いのがお前の言っていた「黄瀬」か?」
緑間の方を見続けたまま赤司は問う
「そうだ。さっき伝えた人間を探したいみたいだ。助けてやってくれ」
不意に赤司は緑間を見つめて僅かに心配そうに口を開く
「…真太郎。お前の方がよほど泣きそうな瞳をしている。また、和成かい…?」
「お前には関係ないのだよ」
「…そう、かい」
赤司は緑間に伸ばしかけた手をゆっくりおろした
やがてこちらを振り返るとわずかに目を見開く
だが、すぐ何事も無かったかのように家の中に入るように促すと
部屋に通された
「まだ、自己紹介をしていなかったね、僕は赤司征十郎。真太郎とは古くから親交のある友人だ」
緑間が頷いたのを確認してから赤司は再び口を開く
「まぁ見ての通り、僕の家はそれなりの名門旧家でね。真太郎から連絡をもらってかなりの範囲まで情報を広げてみたが、君の探し人である「青峰大輝」という人間は該当者がいなかった」
その言葉に黄瀬は茫然とする
「該当者が、いないって、どういう事っスか…?」
「そのままの意味だ。国家機密ファイルまで一応手は出して調べてみたが、この世界に「青峰大輝」という名前の人間は存在しない。」
黄瀬は唖然とする
この世界にはいない???一体どういう事だ
「すっごい強い、真っ黒なバスケット大好きな人…ッスよ…?」
「詳しくは分からないが…」
「いないはずないっスよ…!!!」
だって俺は青峰大輝に会うためだけに此処にいるんだ
だったら、俺はなんでこの世界に来た
彼がいないなら、なぜ俺はこの世界にいる…?
俺は、彼に会うために巡っているのに…!
「黄瀬、といったね?」
不意に赤司の声で現実に引きもどされる
「はい…っス…」
「いくら情報網があるからといっても流石に外見だけで人を探すことは難しい」
その言葉に我に返る
「あ…」
「すまないね。僕もそこまで権限がある訳じゃないから詳しい事までは調べられないんだ。だが…」
居住まいをわずかに正した彼は再び口を開く
「僕が調べた限りではそのような人間は、この世界には存在していなかった。」
その言葉に今まで黙っていた緑間が口をはさむ
「赤司は見ての通り訳がわからない人間だが、こうして居住まいを正している状況では決して嘘はつかない男だ。俺が保証しよう、信頼してもいい。」
「真太郎…!」
「時々どうしようもなく面倒だが、赤司に分からないならその「青峰」とやらはいないのだろう」
「ちょっと、真太郎さんや、デレ期突入です…?」
「こんな風に時々本気で意味の分からない言葉を呟くが気にしないでくれ」
「まじ真太郎クールだわ…」
「赤司、キャラ崩壊しているのだよ」
ポンポンとかわされる言葉は半分ほどしか耳に入ってこなかった
緑間が信頼できると言った
赤司が、その「事実」を口にした
青峰が、この世界にいない

俺の会わなくちゃいけない相手が、この世界にいない………?

目の前が真っ暗になっていく気がした
「なんで、いつも…ッ…!」
目の前で驚いたように手を伸ばす赤司の姿と、背中に優しい腕が触れた気がした
そして、彼は意識を失った


真っ暗な中で青峰の姿が見えた
俺は必死に手を伸ばす、必死に叫んでる、大好きな人の名前を
なのに、俺の耳に叫んでいるはすの俺の声は聞こえてこない
“青峰っち…!!!待って…!!!”
ふいに振り返った青峰が笑う、無邪気に何も変わらないまま笑顔を浮かべる

”お前が好きだよ、黄瀬”

そしてその表情はやがて切ない物へと変わる
”ごめんな”

なにが、何が、待って、待って青峰っち…!青峰っち…!!待って…!!!




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