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再び、彼が目を覚ましたとき彼の意識は真っ暗な空間にあった
(ねぇ、青峰っち、俺、そんなに嫌われちゃったの?)
(会いたくないほどに、嫌われちゃった?)
自分でそう暗闇に向かって呟いてから思わず苦笑する
答えなんてないと分かっているのに
やがて、目覚めた彼の意識が再びまどろみ始める
今度こそ、青峰っちに会いに行けるかな?
そんなわずかな希望を抱いて、彼はそのまどろみに体を預けた


「・・・・っ!!??さっむ!!!!」
そう声に出したことで彼の意識は覚醒する
あたりを見回すと、今度はどうやら公園のようだ
「…」
そして彼は自分の格好を見る
ボロボロの服、所々すすけてさえいる
「…今度はホームレスっスか…!!;;;;」
自分の年齢が分からなかった為に自分の家らしき近くの段ボールハウスを漁り始めると大学の課題の様なものが出てきた
「俺大学生っぽいっスね、今回…」
そう口に出すことで少し落ち着いてきた
「さー、今回はホームレスとかちょっと色々無理ゲーっスよねwwwてか、俺どうやって大学通ってたの…!!?」
素朴な疑問が口からすべて言葉になっていると、「彼」はまだ気づいていない
その言葉に反応したのは…
「ねぇ、室ちん、なんかあの人ひとりでしゃべってる」
「そうだねぇ…きっと疲れているんだよ、敦、行こう」
その聞き覚えのある声に彼は凄い勢いでその声の方向を向く
「紫原っち…!氷室さん…!」
「ちょっと、室ちん、名前呼ばれてるよ〜?あの人と知り合いなの?信じらんな〜い」
「敦こそ呼ばれているじゃないか」

そう言って二人揃って不審そうな顔を見合わせる
自分の持ち物に名前はない、一体今度の「黄瀬涼太」だった彼はなんと名乗ればいいのか皆目見当がつかなかった
「えっと、君、オレ達の名前なんで知ってるの…?」
そう尋ねてきたのは氷室の方だった
後ろには不審そうな、今にもひねりつぶすと言い出しかねない紫原の姿
彼は戸惑った、自分はなんと名乗ればいい
「俺、は…」
「黄瀬君…!!!」
その時自分のかつての名前を呼ぶ声が聞こえた
懐かしい友人の声を聞いた
「え…?」
視界の端に映った優しい水色をした髪
「黒子、っち…?」
紫原と氷室の横をすり抜け彼の前に黒子は走り寄る
「よかった…です!見つけられました…」
そう言って安心するように微笑むと紫原たちの方を振り返る
「紫原君、氷室さん。彼です」
その一言で紫原と氷室の表情にわずかながら納得の表情が浮かぶ
「お願いします、僕はあの人の元から離れられないので。」
そう言った黒子は頷いた紫原と氷室を見て頷くと「彼」の前に向き直る
「黄瀬君。彼らがこれから貴方の後見人です。もし何かあれば彼らを頼ってください。これからは貴方は普通の生活をしてくださいね」
そう言うと変わらない頬笑みを浮かべて
「大丈夫ですよ」
そう言って彼は立ち上がる
氷室・紫原と一言二言交わすと彼はその場から去っていった
「えっと…黄瀬君、だね?オレは氷室辰也」
そう言って手を差し出してくれたのは氷室
どこか妖艶な笑みを浮かべて俺を立ちあがらせると「敦、荷物、持ってあげて」
そう紫原に促す
「え―…」
「あ、いいっス!!いいッスよ!!」
そう言って慌てて自分で持とうとすると氷室に止められる
「いいんだよ、これからは俺達が君の後見人だ。何でも遠慮なく頼って欲しい。彼は紫原敦。背格好は大きいし威圧的でもあるけれど本性は妖精さんだから、あまり怖がる必要はないよ」
その紹介に思わずふきだす
「あははっwww妖精さんwww」
「ちょっと室ちん、変な紹介しないでよ〜」
紫原は不服そうに唇を尖らせていた
「間違っていないよ、黒子と、敦はほんとに天使と妖精だからね^^」
「黒ちんは間違ってないけどさ〜」
二人は何だか当たり前の様に会話をしている

「…仲、いいんスね」
自然と漏れた言葉だった
今回の「黄瀬涼太」は、以前にみた高尾と緑間の姿と同じような事が起きているのを恐れていた
黄瀬の「黄瀬涼太」だった時代の「仲間」がまた同じように誰か大切な人と引き離されているのではないかと
それでも、彼らは仲がよかった、隣にいて笑っている
それが…嬉しい
「こんなとこずっといると、二人とも体に悪いっスよ。立ち話するのはよくない」
そう言ってちらりと氷室の抱えている物を見て微笑む
「二人とも、バスケやってるんスよね?体、冷やしちゃ駄目っスよ??」
あぁ、この世界でも彼らはバスケをしていてくれた
その事実がなんだか泣き出しそうなほどに嬉しい
自分でもなぜだか分からないけれど、そんな事実がたまらなく彼には嬉しかったのだ
その言葉に笑った二人は「そうだね」と頷いて俺を連れて家まで案内してくれた
二人はルームシェアをしている、と聞いた割にはやけに大きい部屋に俺を連れて行ってくれた。
部屋はきちんと整理されているような、そうでも無いような、なんとも言えないものの人らしさが見えて、彼ららしさが見えて、今の彼にはとても居心地がよかった
その時、バイブでもなったのだろうか
ケータイ電話をとりだした氷室が電話に出る
その表情がゆがんだ
「分かった」
たった一言つぶやくと、氷室はこちらを振り向く
ただならない彼の様子に後ろでお菓子を漁っていた紫原も不安そうに彼の言葉を待つ
「黒子が、倒れた」
後ろで紫原が息をのんだ音が聞こえた。黄瀬の体は恐怖でがたがたと震えだす
「今、青峰から連絡が入った。青峰に何かを伝えようとした瞬間にまるで電池が切れた見たいに意識を失ったそうだ」
「青、み・・・・ね…?」
その呟きを知らない人間だという意味でとったのか氷室が教えてくれた
「あ、そうか、黄瀬君知らないんだよね。オレ達のバスケ仲間で、黒子の相棒青峰大輝というんだけれど。彼は今黒子と一緒に暮らしていてね、というよりあまりにだらしない青峰に呆れて彼が世話している、といった方が正しいかな。まぁ、とにかくとても仲がいいんだよ」
「室ちん、いいよ、それより黒ちんのとこ行こう…!!!話はそこ行きながらでもできるでしょ…!」
紫原はすでに再び外に出る準備を済ませていた
その言葉に氷室は頷く
「そうだね、行こうか黄瀬君。」
「あ、はいっス」
そして、彼らと共に連れだって病院に向かう
病院につくまで氷室は様々な話を教えてくれたが、黄瀬はそれよりも「青峰」に会えるという事実に頭がいっぱいだった
もしかしたら会えるかもしれない、そんな希望に一杯だったのだ
だが、黒子の事も同じように心配はしていた
それでも、彼にとっては黒子と同じか、ヘタをすればそれ以上に青峰の事が頭から離れてはくれなかった

しばらくして病院に着いたとき
彼は迷った
氷室と紫原が黒子を心配して行くのは、分かる
話を聞いた限りでは普段から青峰達と一緒によくバスケをしている友達のようだ
だが黒子にとって、今の黄瀬の立ち位置が分からない
俺を呼んで、「大丈夫」そう微笑んだ黒子にすっかり浮かれていた
だが彼らの話では、この世界の「黄瀬」と「黒子」に接点はほとんどと言っていいほどなかったはずだ
なのになぜ知っている?
そして、俺にあった後に黒子っちは青峰っちに何を伝えようとした…?
どうして、黒子は倒れた…?
そんな疑問が頭をぐるぐると回る
タクシーから降りて、先に病院に入っていった氷室達について行く足を一瞬止めた
その瞬間

”会わせてなんてあげない♪”

背筋が凍るようなゾワリとした声が頭の中に直接響く
振り返った氷室が驚いたように目を見開いて叫んだ

「黄瀬君、上っ…!!!!!!」
見上げる間もなく、自分の体が何かにつぶされる感覚がした

肉のつぶれる、骨の折れる音が聞こえた
聞き覚えのある、あの時の、音
ものすごい衝撃と痛みが彼に戻った瞬間、彼の意識は再び切り離される
彼は、駆け寄ってくる氷室と紫原の姿の後ろに優しい水色と青を見た気がした
そして、彼の眼は閉じられる
「黄瀬」は意識を失った




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