09



彼は再び目を開ける、視界にぼんやりと映ったのは、「涼」である俺の父親「高尾和成」の姿と母親「高尾麗香」の姿
ゴメンネ、ごめんね。俺のせいでこの人達は苦しんでる
俺は少しでも本物の「涼」になれるように手探りでも頑張る
だから、お願い
「俺、青峰大輝を探したい」
彼らは目を覚まして早々、そう告げた俺の言葉に目を丸くする
やがて、まっすぐに「俺」の目を見続けていた二人の両親は顔を見合わせると噴き出して
「いいよ、涼ちゃん。好きにしなwww」
「いいわよ、涼ww」
二人は笑いながらもそう言ってくれた
「涼がしたい事、精いっぱいしてみなさい」
「涼ちゃんのための協力を、俺達は惜しまないからね」
 
そして俺のこの世界での「青峰大輝」探しは始まった
彼はただその目で見たかった
彼がかつて愛した人の姿を
根拠もなにも無い
ただ、きっとこの体で、この世界に生まれた意味はきっと何かあるのだと「俺」は思った
そしてその意味は、全ての始まりである青峰大輝
その人の元へ行けば分かるような、不思議な予感がしていたのだ
そして、何よりも彼の自身が青峰に会いたくて、会いたくて仕方がなかったのだ
手掛かりが何もない訳ではなかった
両親が手を尽くして赤司とのコンタクトをとってくれてそのおかげで俺は今、だだっ広い会議室の様な所で彼を待っている
彼ならきっと…そんな思いを込めて彼はその場で赤司の到着を待ち続けた
やがて規則正しい足音がして
「和成の子供が僕に会いたいなんて、光栄だね」
そう言って赤司は現れた
懐かしい、何も変わらないその姿
少しだけ大人びたその表情に久しぶりに涙が出そうになった
「…どうしたんだい?僕に何か用なのだろう?」
「赤司っち、覚えてる?」
そう呼ぶと彼は首をかしげる
「その〜っちというのは君のくせかい?」
そうか、やっぱりこの世界に俺「黄瀬涼太」の位置にいる人はいないんスね
大丈夫、落ち着け俺
深呼吸をして「俺」は「涼」として再び目を開ける
「初めまして。涼です。」
その自己紹介に頷いて彼は目の前のソファに腰掛けつつ俺にも座る事を奨める
軽く会釈してから俺は早速本題を切り出した
「俺、青峰大輝って人を探しているんです」
その言葉に赤司の表情が一瞬強張ったのを見逃さなかった
「あなたなら知っていると思って、ここに来ました」
俺はそのまま言葉を続ける
「俺は、どうしても彼に会いたいんです。俺は、伝えなくてはいけない事がある」
その言葉はするりと口から出た
「俺は、青峰大輝に会いたい」
俺は必死だった きっと今の赤司にとっての自分は大切にしてもらっている「内側」の人間の一人じゃない
そういう人間に対して、赤司という人間は優しくはないことは彼は知っていた
だから、どうしたら伝わるのかわからなかった
それでも、彼に協力してもらうしかなかった
だから
「涼、といったな」
だから、彼がほほ笑んだ時
「青峰大輝は、もうバスケをしていない。それでも、君は彼に会いたいのかい?」
「会いたい。俺は、あの人に会いたくてここまで来たんです」
そう言うと、赤司は頷いて1枚の紙を差し出してくれた
「今彼はここで、桃井さつきという女性と一緒にいる。会いたいなら行くといい」
彼は、かつて「黄瀬涼太」だった時と同じように笑みを浮かべる
不意にまじめな表情になると赤司は1つだけ聞いてもいいかい?と首をかしげる
俺はうなずいた
彼は全て視えているかのような表情を浮かべる
「君は、いったい何にとらわれているんだ?」

「涼」には何も答えられないし、同じように「黄瀬涼太」にとってもその質問には答えが見つけられず、彼は言葉を濁した
ただ、正直なその気持ちを言葉にして伝えた
「……ただ、会いたいだけっス」
そう答えた彼を赤司はじっと見つめるとふっと表情を和らげる
「そうか…。すまないな。僕はこう見えても忙しい身であまり時間がないんだ。用件が済んだのなら、席をはずしても構わないだろうか?」
その言葉に俺は頷き頭を下げる
「赤司さん、ありがとうございました」
「礼には及ばないよ。また何か聞きたい事が出来たら僕に遠慮なく聞いてくれ。時間はあまりとれないだろうが、僕なりに調べてみるからね」
そう言って赤司は部屋を出ていった

そして彼は行動を開始した
赤司からもらった紙には住所と今の状況が簡単かつ明確に説明されていた
きっと彼の両親がコンタクトをとった時に事情を軽く説明しておいてくれたのだろう
元々彼の「今」の体はそこまで強くない。
その為、青峰の元に行くと言い出したものの、旅行すべき様な場所に行かざるを得ない事を知った両親はやはり当然の如く心配をして止めた
それでも彼は必死に彼に会いたい、どうしても会いたいのだと、その言葉だけを繰り返し続け両親を説得した
先に折れたのは意外な事にも母親の麗香の方だった
「…分かったわよ」
そう呟いた彼女を見て和成は眼を見開く
彼が何かを言う前に彼女は何だか泣き出しそうな表情で言った
「だって、和君。あなたが、緑間君を探すって必死になっていた、あの時と同じ目をしているのよ?あなたの血を受け継いでいるこの子の決めた事を反対し続けたって、きっとあの時の和君と同じように知らない間に行ってしまいそうだもの…。それは嫌よっ…。もうあんな思いをするのは沢山だわ…っ」
その涙ながらの麗香の言葉に彼はやがて苦笑いを浮かべ麗香の頭をなでる
「あの時はごめんね、麗香」
その言葉にこくりと麗香は頷く
「涼」
短く父親に名前を呼ばれて、うつむかせていた顔をあげる
「無茶はしないと、約束してくれるよな?」
その言葉に頷く
「…まったく、俺の大事な子たちは皆我が強いんだからww困っちゃうよな〜wwww」
そう言って明るく笑った高尾
「行っておいで、涼ちゃん。青峰に、会ってくるといいよ」
その日、準備してあったものを持って彼は「両親」に見送られてその家を出た

青峰大輝の住む場所は彼のいた場所から少し離れており、公共交通機関を利用する他に徒歩では辿り着かない距離だった

赤司からもらった紙を握りしめて「涼」は電車に乗り込む
全てはここから始まるはずだ
そしてその日、「彼」は再び乗った電車の脱線事故による衝撃でこの世を去る事になる
最も、その心臓が止まる直前に「黄瀬涼太」であり「涼」を演じていた彼は、自分の意識が体から遠のく代わりに誰かの意識が入ってくるのを感じた
きっと本物の「涼」だろうと、わずかに聞こえた「しにたくない」という悲鳴と共に、「黄瀬涼太」は再び意識を失った




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