08



(やっと、青峰っちの所いけるっスね?)
何処かふわふわとした中で彼は微笑んだ
目の前には愛しいあの人の姿
(会いたいっ…!)
(でも駄目だ、お前はまだ伝えていないのだから)
(え?)
その声と同時に目の前が真っ暗になって彼の姿が消える
そして、どこ、どこ????
手を伸ばして、うっすらと重たい瞼を開ける
「ふぇ…?」
伸ばした自分の手は、随分と幼い物に変わっていた

「あ、起きたよ?」
聞き覚えのない声、見覚えのない顔が見え彼は慌ててその体を起こそうとした
しかし
「駄目だよ―、まだ起きちゃwwwせっかちな子だなぁwww」
その体はいとも簡単に抑えつけられてしまった

どうし…て…

彼は不思議に思って自らの体を見る
「!!!??」
「ん?どうした?」
その声が聞こえて安心しなかったと言ったらうそになる
「高尾、っち…?」
目の前に見えたのは少しばかり老けた感じの高尾和成の顔
「あれ、自分の家にっちなんてつける子だったっけwwwどうしたの涼ちゃん?」
そう言って彼の体は持ち上がる
「しかし、ほんと誰に似たのかめっちゃ美人さんだよねー…」
「ほんとだよwww私の成分どころか和君の成分も入ってないんじゃない?」
「ちょっと待てよ、それ誰の子って話じゃんwwww」
「でも私生んだはずなんだけどねwww」
「まぁ、でも自分の子は可愛いのはちょっと鼻高いよなーww」
そして高尾とその女性はこちらを向けて微笑む
「生まれてくれてありがとう」
彼には意味が分からなかった
どうして自分の体が小さいのか、どうして自分は高尾と見ず知らずの女性の子供になっているのか
自分はいったい誰だ…?
そして、彼の苦難の日々は始まる
自分が以前と同じように体を動かそうとしてもできない
今までできていた事が出来なくなってしまっていた
それも当然のように
『黄瀬』だった彼の得た新たな体は以前の自分よりも幼かった
彼は現状でなにができるのかを色々と試していた
そして彼が分かった事
この体は高尾和成とその妻である女性から生まれた二人の子供だという事実
そしてこの時代に、キセキの世代と呼ばれるバスケットプレイヤーはいない
そして

この体では、バスケはできないという事

「和君」と呼ばれていた、この体の今の俺の両親はどうやら俺の事を涼と名付けているらしく名前を呼ばれる事に大きな違和感は感じなかった
だが、彼らにはどうやら俺が話す内容は理解できないらしく俺は、二人の子供としての「涼」を演じなくてはいけないようだった
色々と試していたある日 俺がバスケットボールを持ってバスケをしようとしている姿を見た「涼」の両親は慌てて止めに入り真剣な顔をして俺に告げた
「お前の体は心臓に欠陥があって、運動はできない、だから、バスケも出来ない」
目の前が真っ暗になった気がした
そして、やっと現状を把握しきった彼は翌日から「涼」として様々な事をこなすようになっていった
元々器用だった性格をそのまま記憶として受け継いでるのだ さほど大きな問題はなかった
それでもやはり以前と違って体の自由はきかないらしく、時々目の前がいきなり真っ暗になって体がいう事を聞かずに意識を失う事も多かった
そのたびに心配そうに俺を見つめる二人の姿を見ては申し訳ない気持ちになった
「俺」は本当の意味でのあなた達の子供じゃないのに、いつも心配ばかりさせてごめんなさい
いつも、迷惑をかけてごめんなさい

そんなある日
いつものようにぼんやりとテレビを見つめていた「涼」の目にあるバスケットボール選手の特集が映る
「赤司…っち…?」
それは「俺」が「黄瀬涼太」であった時代の大切な人の一人
もう失いたくないからと、ひどい事を言って傷つけてしまった、大切な仲間の一人
「涼ちゃん、バスケ好きだよな〜。なに見t…ッ!!!」
後ろから不意にかかった彼の「父親」の声が止まる
「?」
不思議に思って後ろを振り返ると顔面を蒼白にした「父親」である高尾和成の姿
「あれ、和君どうし…涼ちゃんごめんね?ちょっとテレビ消してあげて?」
「母親」の彼女からそう言われて訳も分からず頷く
彼は顔面蒼白のままその頭を押さえて座り込む
「待ってっ…!連れて行かないで…!真ちゃんっ…!!!真ちゃんっ…!!!」
「大丈夫、大丈夫よ、和君…そばにいる、緑間君はそばにいるから…」
「ヤダっ…!待って、真ちゃん!!」
「和君、大丈夫だよ…ほら、涼ちゃんもいるよ、私もいるから、大丈夫だよ?」
やがて何とか顔をあげた彼はそのままふらふらと寝室へ向かう
しばらくして寄り添っていた彼女が戻ってきて「俺」の頭をなでながら話をしてくれた
「昔ね、貴方のお父さんがバスケをしていた時、とても大好きだった相棒がいたのよ。でもね、彼は訳あってバスケが出来なくなったの。彼はそれを自分のせいだといまだに責めているのよ。和君は何も悪い事していないし、仕方のない事だったのに。さっきテレビに映った赤髪の男の子、赤司君というのだけれど。彼は貴方のお父さんがまだ大好きだった相棒の子、緑間君と一緒にバスケをしていた時代のライバルだったのよ。」
彼女は切なそうに俺の方を見つめて頭をなでながらも言葉を続ける
「和君も、赤司君も、緑間君も、何も悪い事なんてしていないのよ。ただ、少しだけタイミングが悪くて、そして少しだけ運が悪かったのよ。それでも、貴方のお父さんは優しい人だから。だからごめんね、涼」
和君のために、彼らはあきらめて
彼女はそう言った
「涼」は、まるで全てを見透かされている気がした
「青峰っち…も…?」
知らず知らず、関係のない彼女相手にその言葉が、呼び名が出たのに、彼女は驚きもせずに苦笑する
「彼は、もう、バスケをしていないわ」

全ての音が消える気がした

俺は、またしても失ってしまっているらしい
大好きな存在が苦しむのを見たくないと、やっと彼に会えるのだと思っていたのに、この体でもいずれできる事が増えたら青峰の存在を探そうと思っていたのに
その前に、「涼」の両親が苦しんでいる事を知った
知って、しまった
そして、緑間という存在がいない現実を、思い知った

その瞬間視界が反転する
彼は再び真っ暗闇にいた
「ねぇ、青峰っち、俺また凄い所に生まれちゃったっスね(苦笑)」
高尾っちが泣いてるよ、緑間っち
緑間っちがいなくて、苦しんでる
ねぇ、緑間っち
早く、高尾っちの所いってあげて…

彼はどこかで分かっていた
彼が黄瀬涼太だった時代に、緑間と赤司が自分と青峰を救うために色々な事を調べているのを
そしてきっとこの世界では「俺」が彼を探す事を許された代わりに、俺達が知り合いでない代わりに、彼らの仲が引き裂かれたのだと
理由は分からない、それでも何となく彼には引き裂かれ方が前の自分と青峰と被って見えたのだ
ゴメンネ、高尾っち、ごめんね
ゴメンネ、緑間っち




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