1日目

あぁ…今日ばかりは本気で仕事はやく終われと本当に思いました
終わりましたけど
神様ありがとう


「陽夏さん、今日は何か用事でもあるの?」
同僚からそう問われて私は微笑みながら答える


「家でお帰りを言うために待っててくれる子たちがいるんです」
「え??彼氏???」
「嫁です」
「え??」
「ごめんなさい、何でもないです、仕事に戻ります」


危うく必要以上に自分の趣味がばれるところだった…
というやり取りをすでに5人ほどしてきました


現在時刻夜の9時
「…あと1時間…」


パソコン画面の端に映る時計を睨めつけながら、私は黙々と画面に打ち込み作業を続けていく


−30分後ー


「ひとまず、これで1つ終わりか…」
積んでいた作業の一つを終わらせると大きく伸びをする


「あ、陽夏さん」
「はい?」
同期入社の子の声が聞こえて後ろを振り返る
「今日、もうその仕事終わったら上がっていいって言ってましたよー」
「あ、本当ですか?」
「なんでも、急きょ予定が入ったとかでちょっと早くに終わるって、相変わらず自由人ですよねー部長も」
くすくすと笑っている同期(なのに敬語)の彼女の声に私も笑いながら返す
「まぁ、おかげで早く上がれるんだったらありがたいよね」



という訳で、会社をとっとと片づけて後にした私、現在電車の中なう



「…黒ファイ…」
TLをさかのぼりながら友人の呟きを見て噴き出すという作業をしていれば大概すぐに家に着く


自分の家のドアの前に立つのにこんなに緊張したのはどれくらいだろうか…
しめておいた鍵を開けて、私は彼らの待つ家へ足を踏み入れた
いや、私の家なんですけどね、ここ



「ただいまー…と」
恐る恐るそう声をかけると
「え、もう帰ってきちゃったの!!??ほら黒様!!ちょ、ちょっとんっ!!!!」
(ガタンッ


何かいい声が聞こえましたよ
キスしてる、のでしょうか…


「陽夏ちゃん、お帰り〜って黒様ってばっ…!!!」
「・・・・」
なんか黒様もしゃべったなぁ…聞こえなかったけど


「よくないって!!!仕事しろ!!!」


Σ(゜゜)
ファイたんの口調が……


奥の部屋からだろうか、驚いたまま固まっている私の視界の中に僅かばかりの後にファイの姿が映る


「陽夏ちゃん、ごめんね〜」
眉をハの字に下げたファイはすぐ後ろで不機嫌そうな黒鋼の方を見て
「ほら、黒様」
そういわれた黒鋼はやがて根負けしたかのようにその腰を下ろす
目の前に大の男が二人正座


「…?」


ふわりとほほ笑んだファイは上に羽織っていたシーツを外す


「!!!!!!???????」


「お帰りなさい、陽夏ちゃん」
「待ちくたびれた」
「黒様」
「そんな恰好したがったてめぇが悪い」
「え〜、ほんとはお揃いってのにしたかったんだよ〜?」
「死んでもごめんだ」


「あ、あの…」
ファイの姿を見てプルプルと固まったままの私はその姿についに耐え切れずに口を開く


「そのバリバリ新妻風のひらふりエプロンはいったいどこから…?」


そう、シーツを羽織って出てきたファイはその下に、まさかのひらひらのエプロンをつけていた
おそらく下のコスプレは黒様の趣味だろうな…という着物仕立ての姿
私の振袖じゃないすかね、それ
しかし、ファイたん何十に巻いてるんだ、ごめん太くて…いや、そうじゃなくて


「お帰り、」
ぼそりとつぶやいた黒鋼は正座を崩すと、ファイを引き寄せる
「ちょ、くろさっ」
カクンとそのまま簡単に黒鋼の方に倒れこんだファイ
名前を呼ぶ前にその唇を自分のものでふさぐ


驚いたように見開かれたファイの眼が黒鋼を映す


「…っはっ…っはぁっ…!!!!」
やがてはなされた唇


ちらりとこちらを見た黒鋼がにやりと意地の悪い笑みを浮かべる
「こっから先は、お前が好きなベッドでのイベントだから立ち入り禁止だ」


そんな風に笑った黒鋼のその姿はスーツ
しかしどこから((何回目
「ってベッド!!????」


目の前でキスの余韻のせいだろうか、どこかぼんやりとしたファイを軽々と抱き上げると黒鋼はそのまま私の寝室に向かう
玄関でぽかんとしていた私の方を忘れていたように振り返る
「知世からお前といい友人になれそうだと伝言を預かった。仕事が休みの時にでも一度話したらいい。じゃぁ」


腕に抱かれていたファイも微笑みながらこちらに手を振る


幸せそうな二人の姿にほのぼのとした気分になりながら
手を振りかけて…はっと我にかえる


「・・・・ってちょっとまてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
「なんだよ」
そのまま寝室に向かおうとしていたであろう黒鋼が不服そうに振り返る


「はい、1日目ね、1日目だから!!!まず1つ!!!!」
二人を問答無用でリビングまで引きずり出すと昨日と同じように座らせる


どこか抜けてしまっていたファイも黒鋼に運ばれている最中に気づいたのか、今は真っ赤になった状態で黙り込んで下を向いている
可愛い
いや、違う、いやあっているけど、そうじゃなくて


「完璧なお帰りだっただろう」
偉そうにふんぞり返っている黒鋼とは対照的に耳まで赤く染めたファイは小さく
「玄関でやるキスじゃないよぉぅ…」と恥ずかしそうにプルプルと震えていた


さぁ、深呼吸だ陽夏


「とても素敵なお出迎えでした」


そうだろう、とでも言いたげな黒鋼が何かを言う前に私は笑顔のままその続きを言葉にする


「だがしかし、玄関でやるんじゃない!!!!!!!」
そう、今日のちゅーは、見事なまでに玄関でした
あれは、ちょっといくら夜とはいえ、誰かに見られた時に言い訳がきかない
同じ時間帯にいる人は見たこともないので大丈夫だとは思うが、侑子さんに言われてきている以上は警戒は必要だろう
そう思っていた私は二人にそういった


「これからもおおいにいちゃついてください!!今日みたくチューしてお帰りとかむしろすっごい素敵だった!!1日目からこのクオリティーとかさすがだね黒ファイいぇぇぇあぁぁぁぁ!!!!!!!!!状態で大興奮だったよ?けど、一応君たちは居候になっていて、本来ならこっちの世界ではその場合家賃とかもろもろ面倒事が増える。だから可能な限り君たちにはこの家の中で過ごしてほしい。色々な面倒事を回避するために、これからは玄関は注意してね」
それだけ言うと私は二人に向かってほほ笑む


「で、君たちはその様子だと勝手に私の少女漫画のシリーズひとつ読破したんですね?????」


「先生がかっこよかったね〜・・・」
そういって今まで下を向き続けていたファイはうれしそうに顔をあげる
隣の黒鋼は嫉妬でもしているかと思ったら興味のなさそうな表情


「黒様、嫉妬したりしなかったの???」
そうファイに問うとなぜか再び顔を真っ赤に染めて「全然だよ〜っ!」
そういって首をぶんぶんとふる
怪しい…


「黒様」
「なんだ」
「何巻のシチュエーションやったの」
「8巻掌へのキス」
「ひぃぃぃぎやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!(発狂)」
「黒ぽん!!!!!?????///////////」
「あと、なんだったか…」
「くろりん、もう言わなくていいからっ!!!!!」
真っ赤になった黒鋼の口をファイがその掌でふさぐ


その手を軽くつかみ黒鋼はそっとその掌にキスと落としたのだろうか
「…っ!!(ビクッ」ファイの肩が跳ねる
やがて、黒鋼はこちらを見て口を開いた
「…おい、もういいか、そろそろ俺も限界だ」
その言葉に私ははじかれたようにうなずき
「あ、ごめん二人とも引き留めて。どうぞ、ベッドイベントに…」


立ち上がった黒様はわずかに逡巡したのち不意にファイ頭を軽くなでると、その額にキスを落としてファイを立ち上がらせる


「また明日、お休み、だったか??」
「え?あ、お休み」
僅かにうなずいた黒鋼はそのままファイを連れて私の寝室(元)に行ってしまった



私はそのまま机に突っ伏する

「…黒ファイと同居、心臓に悪い」

けれど、仕事で疲れていたはずなのに
私の口元には自然と笑みが浮かぶ

「可愛い」

くすくすと笑みをこぼすと、私はその日そのままソファーで眠った




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