07 縁があったら






曰く。
彼は根無し草の旅人であるらしく、この街にいたのは全くの偶然である。
観光目的でふらついていたところ、また偶然にも騒ぎを発見し、先ほどに至る───らしい。

出来すぎた話にも思えるが、助けて貰った以上疑う理由も存在しないため、アルクスは素直にそれを信じることにした。

「ウィンドルにもああいうの、居るんだな」
「いくらでもな」

呆れたように呟かれたカロンの言葉に、溜息混じりに返す。今までもこういったことに出会わなかった訳ではない。いくらウィンドルが広い視野で見て平和だと言ったところで、こう言った輩はどこにでも居る。

「だってさ、あれ騎士学校の制服だろ?」
「…詳しいんだな」
「ん。見れば解るよ。あんな集団で同じ服着てさ。お揃いのお洋服〜なんて感じじゃないしな」

思わず勘ぐるような言葉になってしまったのに気づいたのだろうか、茶化すようにカロンは言う。さっきのことで少しピリピリしているらしい。恩人にこんな態度とは…。どうにか落ち着こうと大きく息を吸って、すうっと吐き出す。それだけでも、幾分か落ち着いた気分になるのは、気のせいではないだろう。

「アル兄…?」
「ほら、妹が心配してるぞ?」
「わ、解ってる」

ぎゅっとアルクスの服の裾を掴んでいたスピカの頭を撫でて、大丈夫だよと言ってやる。自分よりよっぽど怖い思いをしただろうスピカは、瞳に陰を落として俯いてしまっている。

「さぁて、俺はそろそろ行こうかなあ」

カロンが、両手をコートのポケットに突っ込んでへらりと笑う。もう行くのか、と言おうとしたがよく考えたらここでそれなりの騒ぎを起こしてしまったのだ。放っておけば直ぐにでも衛兵がやってきてしまうだろう。そうすればまた面倒なことになるのは目に見えている。だから彼は、その前に撤退するーーーと、そう言っているのだ。
明らかにあちらに非があるとしても、あちらは騎士学校の人間、自分はしがない旅人となれば、事が大きくなってしまったときにどちらが不利かなど一目瞭然だった。

「ああ。ありがとな」
「気にしないでいーよ。俺が好きでやったことだし。…じゃ、縁があったらまた会おうか」

言うが早いか、彼は二人に背を向けると、ひらひらと後ろ手に手を振り去っていってしまう。見えなくなるほどまで見送ってから、これからどうするかに意識を巡らせる。

未だに殆ど喋らずに居るスピカが心配だが、この件は一応騎士学校には報告すべきことなのだろう。それに明日から学校を休む件についても伝えなければならないことを思い出す。元々はスピカを一度家に送ってからもう一度騎士学校に行くつもりだったのだが、予想外の事態に時間を食ってしまった。

「スピカ」
「?」
「一度、学校に行く。着いてくるか?」

怯えが見えるスピカを一人で先に返す訳にも行かず、しかし学校に顔を出さないわけにも行かず。それならこれしかないだろうとスピカに問う。答えは明白だったが。

「…行く」
「…ん。じゃあついておいで」

安心させるように妹に笑いかけてから、その手を取って歩き出す。

日は既に傾き始め、バロニアの街をオレンジに照らしだしていた。


 



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