07 「あ、あれ。でもそれって、リオン仕事は」 ふと気がついたように顔を上げる。 レイスがリオンが討伐するはずであったモンスターをほぼ倒してしまったことで必然的にリオンは命令であったモンスターの討伐ができなくなったことになる。 「この辺りに既にモンスターはほとんど居ない。有りのままを報告するまでだ。」 「なんか……、悪い」 レイスがこれといって不味いことをしたわけではないのだが、その結果リオンの仕事を妨害したことには罪悪感を抱く。 「……、終わったことを言ったところで仕方がないだろう。僕はもう戻る」 少ししおらしくなったレイスを見たリオンはふん、と鼻で笑うとそれだけ言って踵を返す。 返答までのたった少しの間がリオンの心情を僅かに表している、そんな気がした。 言葉通り、レイスに背を向け森の出口の方向へ歩き出したリオンを見て、レイスは慌てて声をかける。 「あ!なあ、リオン!」 「なんだ」 「どうせダリルシェイドに行くんだろ?俺も一緒に行く!」 折角人と遭遇できた上に行き先が同じとなれば一緒に行きたいと思うのは半ば性というもの。 さらにレイスとしては、偶然奇跡的にソーディアンと出会えたのだから、そのチャンスをみすみす捨てるというのももったいない、感じたため。 振り返ったリオンはレイスのその言葉を聞くとあからさまに面倒だ、という顔をする。 「そんな顔しなくたっていいだろ…!」 「……面倒だ」 それだけ言うとリオンはまた歩き始めた。 面倒だ、は拒否ではない。 リオンは嫌ならば一刀両断してくる質であることはレイスにも何となく伝わっていた。 ふ、と口元に笑みを浮かべて、かなり距離が開いてしまったリオンの桃色のマントを追いかけ始める。 「なぁ、リオンって何歳なんだ?」 「なんだ急に」 道中、いくらレイスがモンスターを大量に討伐したからといってモンスターが出ないと言う訳もなく。 しかし姿が見えたからとレイスが剣を抜いた頃にはリオンが既に切り倒してしまっている。 王国に正規に迎えられた剣士なのだから剣士としてそれなりに強いのだろう、程度に思っていたレイスだったが、それなりどころか明らかに自分とは次元が違うように見える。 背丈の差からして年も近いのだろうと思っていたが、ここまでの実力者だとは、と胸奥で下を巻く。 そして、彼の年を知らないことに気がついた。 「ふと気になってさ。俺は15なんだ。リオンは?」 「教える義理はない」 「またかよー」 顔を背けてリオンは答えようとしない。 そんな様子を見たシャルティエが笑いながら口を開く。 『ふふ……、坊っちゃんはレイスと同い年ですよ』 「シャル!」 口が軽い自らの剣にリオンはかるく怒鳴り付ける。 「へぇ!同い年か。まぁ俺はほぼ16なんだけど……。リオンは?」 『じゃあ坊っちゃんとはほとんど一年…、って坊っちゃんもういいませんから!』 ぎゅうと一際強く柄を握られたらしいシャルティエが悲鳴混じりの声をあげる。 その二人のやり取りを見て、今度笑ったのは、レイスだった。 「俺はこっちだから、ここまでだな」 王都ダリルシェイド。 日はすでに傾きかけて、遠くに見える王城は夕日を浴びて普段より幻想的に見える。 (リオンはこれから、あそこに行く) 帰宅路には大した問題も起きず、いたって平和なものとなった。 リオンとレイスの間には雑談と呼べるものもほとんど無く、ときたまシャルティエとレイスが会話するという様子。 端から見たらレイスが一方的に話しているように見えただろう。 「……あぁ。」 レイスが指をさして示すのは、どちらかといえば町の中心からは外れた住宅街。 レイスは少し前方を歩いていたリオンより前に出ると、 「今日はリオンとシャルティエに会えて楽しかったよ!」 満面の笑みを浮かべて。 その夕日色の瞳は斜陽を反射してさらに輝く。 「……僕は」 リオンが何かを言いかけるが、相変わらずレイスは聞く様子もなく路地へ走っていった。 「またな、リオン!」 ← → |