赤霞 | ナノ





02


「…この辺りか」

セインガルド、ダリルシェイドに程近い森。
その中に小さく少年のテノールが響く。


混じり気の無い漆黒の髪はさながら絹糸のような光沢を持ち、瞳は濃紫。日の光を反射すると、きらきらと光り紫水晶を感じさせる。
まさに秀麗、という言葉が良く似合う少年。


『はい、この辺りで間違いない筈ですよ』

別の声が、その少年の呟きに答える。
しかし少年の周りには人影一つ見当たらない。
かわりに、彼の腰から下がっている曲刀に付いているレンズがちかり、と瞬いていた。



セインガルドの王国客員剣士であるリオン・マグナスがこのような森に居るのは、他でもなくその職務を全うする為であった。


『けどそのわりには、あんまりモンスター居ませんねぇ』


「ああ……」


近頃多発しているモンスターによる旅人の襲撃。恐らく天候等、いくつかの条件が偶然重なったことによるモンスターの大量発生、さらにその為に起きた獲物の急激な減少が原因だろう、と国は目星をつけた。

多くの旅人やレンズハンター、商人、またその積み荷が甚大なの被害を受けている以上、国で何らかの対応を取らねば――と、その討伐に白羽の矢が立ったのがリオンだった。


他にも兵による小隊が編成され討伐を行ってはいるが、国でも指折りの実力者と謳われるリオンならば、と特に兵を連れることもなく単身自らに充てられた区域に来たのだった。

事実、リオンからするとモンスター一体一体は然したる強さでは無く、なんの問題もなかった。


しかし、森へ来てみたらどうだろうか。
聞いていたようなモンスターの大群はまるで見当たらない。
既に討伐されたかの様な静けさが森に広がるばかりであった。


「どういうことだ……?」


『まさか、場所を間違えたなんてわけもありませんしねぇ』


怪訝そうな顔をしながらリオンは辺りを見回す。
姿無き声がリオンに語りかけると、リオンはそんなわけはない、と頭を降る。



そのとき、何処か近くから、きん、と鋭い金属音がリオンの耳に届く。


「……?」


セインガルド兵はこの辺りが自分の担当と知っているのだろうからいる筈も無く、ならば冒険者かレンズハンターだろうか、と意識を巡らす。

最近モンスターが多発していることはその手の人間の間ではよく知られている筈なので、ここに居るのは、それなりに自信がある人間なのか、もしくは知らずに来た馬鹿か、知っていて尚来た馬鹿か、だろう。


『誰かいるみたいですけど、どうします?坊っちゃん』


リオンの方もわざわざ国から命じられて来ているため、‘自分が向かった時には既にモンスターは居なかった、しかし理由は不明’等というふざけた報告をすることは出来ない。


「……調べてみるしかないようだな」


ため息を一つついて、リオンは音が聞こえた方向へと歩み始めた。




 



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