14 「はい?」 声の主は何時からか隣に居たらしい淡い金髪の男性。 白衣を着たその佇まいは正しく研究員といった所だろうか。 「ああ、まず自己紹介しないとだね。僕はレイノルズといいます。この城で研究員をしているんだ」 「はぁ…俺…じゃない私は……確かにレイスです。けど何で自分を?」 突然話しかけられたことに驚きつつ、レイスは返答をする。 レイノルズと名乗った男性は人の良い笑みを浮かべながら返した。 「資料を探しに来たらリオン君が居てね。君のことを聞いたんだ」 「リオンに?」 「うん。本が何冊か抜けてたから、誰が読んでいるのかと思ってたら彼が教えてくれたからね」 話をすれば、というように本棚の間からリオンが姿を表した。 リオンはまず一番にシャルティエを取り上げると、レイノルズの方を向く。 「この人が君が言ってた?」 「あぁ」 レイノルズは再び視線をレイスの方にやる。 好奇が多く含まれている視線に、レイスは心なしか居心地の悪さを感じた。 「あ、あの…、自分になにか?」 「単純に気になったんだよ。あの辺の本を自分から読もうとする子なんて殆ど居ないからね」 その言葉に嘘は無いようで、レイスの顔と本とを交互に見比べる様子は興味津々と言った風。 「君はこういったのに興味が有るのかい?」 「はい!レンズや天地戦争時代のことに興味があるので……そういえばさっき、研究者って……」 さっきレイノルズはそう言った。 あの場では話しかけられた驚きの方が大きく流れてしまったが、よく考えれば王宮に勤める研究者がわざわざ自分を見つけてまで話しかけるなど、そう有ることではないと気がつく。 「そうだよ。レンズだけじゃなくて色々と手を出してるけどね。だから君が気になったのさ。――そうか、この本に興味が……」 「どうかしましたか?」 明るい様子から一転、未だレイスが持ったままの本を見て思案顔になったレイノルズ。 「ここまで来るってことは、相当好きなんだね。………折角だしよかったら貸出手続きをしてあげようか?」 彼はレイスの質問には答えず。しかし発せられた言葉はレイスにとってそんなことを吹き飛ばす衝撃を与えた。 「え、えぇ!?いいんですか?」 「できるのか?」 これにはリオンすら驚きの声をあげる。 この場所にあるのはどれも珍しい書架ばかりで複写が無いものも多く、城外に持ち出すなどとはほぼありえない。それをレイノルズは口にしたのだから驚くのも当然のことで。 「少々……いや、かなりの特例だけど、可能だよ。よくここを使う僕の信用問題みたいなのもあるけどね」 「信用問題って……自分にそんな……本当に?」 「うん。その代わりといってはなんだけど、条件を出して構わないかな?」 「もちろん!」 レイスは即答する。 どのような条件だろうと、一時的でも持ち帰りゆっくり読めることには勝らないと思ったため。 「じゃあ、二つ。貸し出す本はとりあえず一冊だけ。それで、その本について纏めてきてくれるかな」 「纏めて?」 しかしながらレイノルズが呈した条件は予想外な物だった。 本の冊数は予想していたが、あとはてっきりその扱いなどだと思い込んで居た。 「そう。簡単なレポートってところかな。君が気になる観点からで構わないから……平気かな?」 「……はい」 たっぷり数秒迷ってからレイスは答える。 「良かった。じゃあ、期限は五日後の正午に僕の研究室で。リオンくん、案内を頼んで構わないかな」 「五日ぁ!?」 「……なぜ僕が……」 レイスは驚愕して、リオンは不服そうに。そんな二人の呟きを意に介さずレイノルズは続ける。 「内容はどの本でもいいよ。君がどんな風に纏めてくるか、楽しみだな」 にっこりと笑うレイノルズにいまさらレイスが無理だ、などと言うことは出来なかった。 ← → |