赤霞 | ナノ





13


「俺、王宮とか近づくのがまず始めてだよ」

『普通ならあんまり必要もありませんしね』

「うん」


本来なら必要が有るリオンの方が特殊であり、そんな人間はそうそう居ない。


「少しは静かにしていろ」

「はーい」

城門に至る壮大な階段を登る。リオンは慣れた様子だが、レイスにすれば全く無縁で場違いな場所には来たようなもので、少しの緊張感を持つ。

(リオンってすごいんだな、やっぱ)

堂々たる様子で進むリオンを見て、改めて感じる。
15程度の年にはとても見えないほど大人びていて、下手をすればレイスより歳上に見えてしまうだろう。


階段を登り終えた所に聳え立つ城門と、その奥に巨大な城。
栄華を極めるセインガルドに相応しいと言えるその荘厳さに、思わず息を飲んだ。

リオンが通りすぎると門に立つ兵士が軽く頭を下げて挨拶をした。


「こっちだ」

「あ、あぁ」


迷い無く進むリオンの少し後ろに付いて城内を進むと、程なくして目当ての場所にたどり着く。
城の建物とは別に並立して建てられている図書館だったが、優に一般的な一軒家が数件入るだろう敷地を有していた。

「うわ」


リオンが扉を開けたため続いて建物に入る。
中には壁一面に書架が大量に詰められた棚。
他にもフロアに設置された本棚も多く有り、館内では閲覧用に用意された席で書架を読む人間も多く見える。


本の貯蔵量には単純に感動するが、特殊と名前にあるためどんなものかと考えていたレイスは、思いの外普通の図書館に似た様子に少し驚く。

『近ごろはオベロン社に触発されて様々な分野の研究が進み始めたから利用頻度が上がって、最近改装されたらしいですよ』

「へぇ……!」

レイスの様子を見て気がついたのか、シャルティエが言う。

この図書館の中に今までに触れたことの無い情報が多大に有るのかと考えれば、自然と気分も高揚してくる。

レイスが辺りを見回していると、緒手続きを済ませてきたらしいリオンが隣に立った。


「リオン、どこに何が有るか解る?」

「多少はな。天地戦争時代の物は最奥だろう」

リオンに聞くと、彼は少し考える素振りをしてから答えた。
それはどこかとレイスが聞こうとしたところでリオンはまた歩き出してしまった。

今日は随分とリオンの背を見る日だと思いつつリオンに着いていく。

通りすぎる本棚にはどれも興味深い本が詰まっていて、自ずとレイスが本命とする本らへの期待も、また高まった。




「……すごいな」

「何がだ」

「見た事ない本ばかりだ。知識の塔はそれなりに漁った気で居たけど……」

図書館の最奥。
そこにはリオンが言ったようにレンズや天地戦争時代の物があらかた纏まったスペースが用意されていた。

レイスは一冊を取り出してページを捲る。
歴史書らしいそれには文字がびっしりと詰められていた。


「閲覧用の席は使って良いんだよな?」

「あぁ」


返事を聞くと、レイスはもう数冊を棚から引き抜いた。
リオンも本を取ったのを横目で確認して、近場の席へ向かう。

人が居ない長机の一角を二人で向かいに座ると、途端にレイスは持ってきた本を開く。
そのまま黙々と一心不乱に本を読み耽るレイスに、リオンは若干の驚きを感じた。

目付きは真剣そのもので、今まで見ていた飄々とした様子とはまるで違う。

それだけ研究に対する思いが強いと言うことか、とリオンは彼女に関する認識を少しだけ改めた。



少しの時間が経った後、持ってきた本を読み終えたらしいリオンが立ち上がると、レイスはふと顔を上げた。


「あ、リオン」

「何だ?」

「あのさ、シャルティエに聞きたいことがあって……本を持ってくる間だけ話してても良い?」

「……解った」


了承したリオンは鞘ごとシャルティエをベルトから外すと、机の上に丁寧に置く。
ソーディアンというだけあって拒否されるかと思っていたが、時間の短さからして何ができるわけでも無いだろうとリオンは判断したらしかった。

「ありがと」


リオンが歩き出すと、代わり様に机の上のシャルティエが口を開く。


『レイス、話って?本のことですか?』

「いや……、リオンのこと」

『坊っちゃんのこと?』

てっきり読んでいた本にあった技術等についてだと思っていたらしいシャルティエは予想外のレイスの言葉におうむ返し。


「うん。……リオンはどうして俺のこと誘ってくれたのかなって」

『それは……』

「解ってる、"借り"ってリオンが言ってたのは嘘じゃないよね。でも、それだけでここまでしてくれるのかなって」

『案外レイスって疑い深いんですね』


苦笑したような声音のシャルティエ。その後少しの間を空けて続ける。

『少なくとも、坊っちゃんは僕には何も言ってませんよ?』

「そっか。ならいいんだ……変なこと聞いてごめんな、シャルティエ。たまに距離は感じるけどさ……、リオンともっと仲良く、なりたいんだ」

『ふふ、大丈夫です。あと、僕のことはシャルで良いです。長いでしょう?……坊っちゃんのことは少しずつ、前進していけばいいと思いますよ』

「そうだね……ありがと、シャル」


コアクリスタルの辺りを軽く触れて、レイスは呟いた。
再度本を読もうとシャルティエから手を離したところで、隣から声をかけられた。


「君がリオン君が言ってたレイスさんかな?」



 




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