12 「まぁいい。丁度良かった」 「丁度良い?」 レイスが先日撒いた火種分を既に討伐し終えたらしきリオン。 シャルティエがしっかり鞘に入れられているのと、動いたときに砂でも被ったからなのか多少埃っぽくなっているマントがそれを物語っていた。 リオンはその軽く汚れたマントを手で叩きながらレイスに話しかける。 「……帰るぞ」 「はい!?リオン何がしたいの!?」 話をするのかと思えば、リオンは踵を返して歩き出す。 一度だけちらりとレイスの方を振り返ったことから、着いてこいといっているのは確からしいが、レイスは何がなんだか理解できずに居た。 会って五分も経っていないと言うのに。 「リオンー?何かあるのか?」 隣に並んで顔を覗き込むが、リオンはすぐにそっぽを向いてしまう。 『ふふ、坊っちゃんは昨日の……』 「シャル」 コアクリスタルを手で軽く叩いてリオンはシャルティエを制する。 「昨日?」 「ふん」 「それじゃあわからないよ……ま、良いけど……」 彼なら恐らく目的地に着いたら目的地なり何なりを教えてくれるだろうから、それまで待てばいいと思いながらリオンを追う。 * 「……リオンは何がしたいんだろう…」 王都ダリルシェイド。 リオンの「帰る」は文字通りで、着いてきた先はダリルシェイド。 どこかへ向かうのかと考えたが、しかしリオンがダリルシェイドに着いた途端に発した言葉は。 「着替えてこい……って……」 「もっとまともな服に。一時間だ」そう言い残してリオンは去ってしまった。 普通に考えれば一時間後に待ち合わせと言ったところだろうが、リオンが何を考えているかはまるで解らない。 「まともな……、ねぇ。」 更には行き先も解らないのでは服の選びようもないのだが、チェストを開いたところで選ぶほどの服は入っていないことを思い出す。 諦めて、唯一あった白のシンプルなブラウスと黒のズボンに着替える。 あいにくスカートは持ち合わせて居ない。 嫌いと言うよりは、機能性を重視したばかり結果的にズボンばかりになったというわけだった。 本人が容姿や服装にあまりに興味をしめさないあまり、リオンを筆頭としてレイスの性別を間違える人間は多い。 リオンにも別に隠しているわけでは無いがわざわざ訂正するのも面倒で、後は少しの好奇心。 「これで、よし」 着替え終えると、少しだけ鏡台を覗いて申し訳程度に髪を整えた。 どうせ強くクセがついた髪は中々直りはしない。 時計を確認すれば約束(おそらく)の時間まであまり残されていなくて、急いで部屋を出た。 反射的に剣を掴みそうになったが、恐らくは必要ないだろう。 「リオン!」 「来たか」 さっきの場所に戻ればリオンは既にそこに居て、腕を組みながら立っていた。 それだけでひどく絵になるものだ、などと考えながらリオンに駆け寄る。 「で……リオン、何の用なんだ?」 返答はなく、変わりに目の前に一枚の紙が突き出された。 四隅を飾り枠に装飾されたその紙にはリオンの物らしい流麗な字が書き込まれている。 「昨日の借りは返す」 「……リオン、これって」 『王宮の特別資料室に入るための紹介状ですよ』 「………………!!」 上部には自分の名前が、そして最下部にリオンの署名。 「俺には無理。あそこには結構有るみたいなんだけど」 思わず一瞬息を忘れる。 リオンはあんな軽い一言を覚えていたと? 特別資料室となれば許可を取るのはあまり楽では無いだろうし、その上レイスは城の関係者では無い。 更に面倒が必須だろう手間をリオンが自分に割いてくれたのかと思うと、昨日の無駄な悩みなど忘れてしまう。 たとえリオンの最終的な目的が、研究の成果に関することが多大に含まれているのだとしても。 「嬉しいよ、リオン。ありがとう……、ほんとに」 「ふん。とっと行くぞ」 進み出したリオンの隣に並んで、王都の中心へ向かう。 ← |