11 「レイスさん、凄いですね」 リオンが店を去って、数分。 ほぼ客の居なくなった店内で、アルバイト仲間のあの少女がレイスの元によって来て呟いた。 「うん?何が」 「だってさっきの人……、"リオン様"ですよね?」 「リオン様ぁ?まぁリオンはリオンだけど」 少女が言わんとするところがイマイチ解らないレイスは目をしばたたかせる。 「え、レイスさん知らないんですか?」 「何を?」 「リオン様といえば、若干15にして国も認める少年剣士!未来の七将軍とまでいわれていて、しかもすっっごいカッコいいって町でも有名なんですよ!?」 「へ、へぇ」 急に熱っぽく語る少女にレイスは若干引きながら相槌を打つ。 「リオン、そんなに有名なんだ……」 「そうですよ!それに私、あんな近くで会えるなんて思わなくて。だからすごい緊張しちゃって……」 「なるほど、さっきはそれで」 ケーキを運んできたときのおかしな様子を思い出して、納得する。 それだけ有名な人間で、確かにいわれるだけの顔はしている。 話を知ってる人間なら、あの反応でも納得がいく。 「はい……、それにしても、何処で知り合ったんですか?」 「たまたま、森で。助けてもらったんだ」 「助けて……?ほんとにラッキーなんですね。シンデレラ、ってやつじゃないですか」 「はぁぁぁ!?」 少女の口から出た単語にレイスは思わず大口を開ける。 レイスに向かって使われた、童話の姫の名。 この場合、非常に幸運だという意味で使ったのだが、それだとしてもあまりに自分には不相応で程遠い単語にレイスは失笑した。 「えー?それぐらいラッキーじゃないですか」 「それにしてもその単語は……、というかリオン、多分俺の性別勘違いしてるしなぁ」 森で出会ったときから今までを思い起こす。 あの時も今も女物とは言い難い服を身に付け、この容姿、一人称。 (リオンは女とか、あんま好きじゃなさそうだし。リオンの距離の取り方からして、) 多分、間違われてるなぁ。 「まぁ、レイスさんすごい紛らわしいですしね。髪とか伸ばせばいいのに」 「いーの。邪魔だし」 仕事のため、いつもよりは髪などを整えて居たものの、やはり何処と無くハネた髪。 ふわふわ、そんな印象を与える目前の少女と比べるととても女の子らしい、とは言えない。 「ふーん……、まぁ、あのリオン様と仲良く出きるなんて、凄いですよ!」 「……仲良く、ねぇ」 「?」 「何でもないよ。ほら、仕事」 テーブルに置きっぱなしにされていた皿とカップを持ち上げて、厨房へ向かう。 (それでもなかなか縮まらないよな。どこか、線引きされてるかなぁ、やっぱり) そんなことを考えながら、食器を運び終える。 なんとなく、先までは無かった雑念がどこかでぐるぐる渦巻いた。 それを振り払うように両頬を軽く叩いて決める。 (明日、またあそこに行こう) 体を動かすのがきっと一番物を忘れられる。そう思って。 * 四季を通して比較的気候の安定しているセインガルドは、特に春となれば天気が崩れることは少ない。 翌日もそれに漏れず清々しい晴天で、絶好の冒険日和といったところだった。 「レンズは……、無いよなぁ……誰かが拾ってくれてた……とか都合の良いことは……無いか」 同じ場所にきたものの、この間置き去りにしたレンズは影も形もない。レンズが自然消滅するのは基本的にはあり得ないため、動植物が取り込んでモンスター化したか、あの後通りがかった誰かが拾ったかしか考えられない。 しかし後者のような都合の良いことがそうそうあるわけも無く。 「やっぱりダメかー……っと!」 ふと、背後から何かの気配と物音を聞いてその場から飛び退く。 瞬間、今まで自分が居た場所には太い一本の針のようなものが突き刺さった。 「危ないなぁ……」 それは先日大量に倒した蜂型モンスター。 レイスはその姿を確認すると、剣を引き抜きモンスターへ向けた。 現れた銀色に、生理的な恐怖を感じたのか怯む相手を躊躇い無く両断する。 相手を確実に仕留めたことを確認して今度はしっかりレンズを拾う。 「一体だけ……、あんまり多くないみたいだけど」 「もう僕が始末した後だ」 「………………そっか……」 しゃがみこんだところで背後から声を掛けられる。 昨日聞いたばかりのその声に、思わず振り替えるのを躊躇った。 『今日はレイスの方が遅かったですね!』 「……あぁ、うん……」 いつまでも背を向けていても仕方ないため、緩慢な動作で振り向けば今まで以上の無表情。 一方その腰からぶら下がっているシャルティエはずいぶん楽しそうな声音だったが、それが余計にレイスをいたたまれなくさせる。 「その……、リオンさんは……どうしてここに」 「ほう?僕にそれを言わせるのか」 「……ゴメンナサイ…」 ← → |