09 「俺はショートケーキにしようかなぁ。リオンは?」 「別に僕はいらない」 さまざまなケーキが並ぶショーウィンドウの前に二人は並ぶ。 「えー。御代なら誘った俺が払うんだしさ」 「そういう問題じゃないだろう」 「そう?」 そう言うとリオンから目を反らし、レイスはまたショーウィンドウにかじりつく。 決めたと言いながらまだ何にするか迷っているのだろうか、悩むような顔つきをしている。 「よし!じゃあショートケーキとモンブラン一つずつ。あと適当に紅茶お願い」 先ほどの少女にそう告げると、レイスはテラスに向かう。 「………二つも食べるのか」 「え?違うよ。モンブランはリオンの」 「な」 けろりとレイスは言い切るとリオンの方に向き直って悪戯っぽく笑う。 「折角来たんだし、ね。美味しい……、と思うよ?」 『そこ言いきりじゃないんですか?』 「んー。だって味覚とか主観だし。俺がそう思ったとして、リオンもそう思うとは限らないしさ。だから」 「…………」 店内にあるドアを開け、テラスへ。 人の居ないテラスは春の穏やかな風が吹き抜けて心なしか気分よく感じさせた。 そのうちの、さらに一番端のテーブルに座るレイス。 ここまで来たら逃げようがなくなったリオンは仕方無しにレイスの向かいに座る。 それに合わせたように少女がケーキと紅茶が乗ったトレイを持って表れる。 「お、きたきた」 「ご、ご注文の品、です」 何故かぎこちない様子でトレイをテーブルに置くと、ちらりとリオンを横目で見て急いで立ち去っていってしまう。 「なんだろ、変なの。まあいいや。はい、リオン」 レイスはリオンの側に湯気を立てるカップとモンブランを渡す。 自分の側にはリオンと同じカップと、苺の乗ったショートケーキ。 「食べるとは言ってないが」 「リオン連れないなー。……まぁ無理して食べなくても良いよ、俺が勝手に頼んだんだしな」 レイスは自分のショートケーキにフォークを刺すと、一口分掬って口に含んだ。 クリームの控えめな甘さが口内にふわりと広がる。 「うん、美味しい」 それを見たからかは不明だが、リオンもフォークを手に取り少しだけモンブランを掬う。 「えっ……リオン?」 そのままフォークを口元に運ぶと、最後に本の少しためらう素振りをしつつ口に含んだ。 頼んではみたものの、正直なところリオンの性格からして食べないだろうと踏んでいたレイスは驚きながらリオンの顔を窺う。 「あ、あの……、リオン、どう?」 自分で作った物では無いが、まるでそれと同じかそれ以上の緊張感をレイスは感じていた。 そしてレイスの問いからたっぷり十数秒。 「……まぁ不味くは無いな」 「……!そっか、よかった!」 小さく独り言のように呟かれたそれに、レイスはほっと胸を撫で下ろし、またケーキを口に運んだ。 ← → |