▼ 第二夜
『ん…』
うとうとし出していた珱は外が騒がしいことに目を覚ました。
『うるさい…』
なんだ?と目をこすりながらカーテンを開けて、眩しい陽の光に目を細めながら外を見る。夜間部の寮の門前には普通科の女子達が群がっていた。
『ああ…今日は聖ショコラトル・デー…』
一年に一回にある、女の子が想い人へとチョコをあげる日…だったか?
『浮き足立つのは勝手だけど、人の迷惑考えてよね…』
大きく欠伸をしながらカーテンを閉めてベッドに潜り込み、登校時間まで眠ることに。
登校時間になりエントランスに行けば、収まっていた女子達の騒ぎ声がここまで聞こえる。
「騒がしいわね」
『ホントに…』
「いつもと違ってなんでこんなに躍起になってるんだろ」
「おバカ。今日は聖ショコラトル・デーでしょ」
「あ」
そんな会話をしながら歩いていれば、守護係である優姫と零が(特に優姫が)張り切って列を作っていた。そもそも理事長である灰閻が張り切りすぎなのだと、降ってくる紙吹雪やら紙テープなんかを見て思う。
『藍堂さんはいつも張り切ってるね』
「張り切りすぎて寮長に怒られるのがオチよ」
莉磨の予想は当たっていた。
「俺キョーミない」
「行ってやれよ」
『そーだよ支葵。私チョコ食べたい』
「…仕方ないな」
ため息しながら支葵も自分の列に。
「珱、俺のもいるか?」
『…架院さん、甘いもの嫌いでした?』
複雑そうに暁は溜息。
「嫌いじゃないがあんなにはいらん…」
『ああ…いる』
どことなく嬉しそうに頷いた珱の頭を暁は撫でてやる。
暁と別れて先にいつの間にか行ってしまった莉磨にため息して歩いていると、枢が優姫以外のチョコを星煉に渡しているのを目撃。
『……』
ん?と星煉は珱の視線に気づく。
「…いりますか?」
こくんと頷く珱だった。
受け取ったチョコを一口食べて、なかなかの味に手作りかと包装紙を見つめる。ピクリと珱は反応して校舎に向けていた体を振り向かせた。
『ーーーー…』
目を細めて、珱は気配を感じた場所へと向かう。室内に入り、廊下に来るとそこには壁により掛かり跪く普通科の男子生徒が。
『大丈夫?』
背後から相変わらずの無表情で声をかければ、相手はギロリと殺す勢いで睨みつけてきた。
「こんな所で何してる……吸血鬼」
荒く息を繰り返す零に珱は目を閉じため息。
『我慢すれば君が痛い目をみるよ』
「黙れ!お前みたいな奴に言われる筋合いは………、……っ」
コツ、と靴音を鳴らして近づきしゃがみ込み伺うように見る。
『私は君の監視役……何か起こす前に忠告するのは、当然だよ?』
その方が君のためにもなるしね。
ピク、と反応を示し睨みつける零に珱は目を細めて立ち上がる。
『一応心配もしてるから…お大事にね…』
どうせ手を貸しても突っぱねるでしょ。
言って珱はクラスに向かった。
『………』
四年前のあの日から、彼の人生は変わってしまった。その日から彼は、十六夜家の監視下に置かれる存在となった。
『そろそろ、誤魔化せないんじゃないかな…錐生零君?』
細めた瞳は愉快そうで、哀しげだった。
next.
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