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第十七夜





珱が陽の寮へと来れば、ホールには血薔薇の銃を手に零が、刀を手にまり亜が対峙していた。



「ゼ…」



一瞬、優姫の声が聞こえた気がした。それに反応したのは珱だけではなく零もで。



「…よそ見なんて、許さない!」



まり亜が零の体に一太刀いれ、互いに距離をとる。



『そこまで』



静かに声を発して、珱がまり亜の背後から首に刀身をあてがった。



「…っ」

「…無粋な事をするのね番犬さんは…せっかくの感動の対面を邪魔するなんて」



笑みを浮かべたまままり亜が視線だけを背後の珱に向ける。



『陽の寮で吸血鬼のゴタゴタを起こすのは番犬として見過ごせないから』

「…なるほど。貴女が来るまでには終わらせようと思ったのに…やっぱり借り物の躯は少し使いづらいわ」



パラリと纏めていた髪が垂れる。



「…心臓に当たらなくてざぁんねん…」



まり亜の腹部からは血が流れていた。



「……でも、番犬さんが来ちゃったし、傷を癒やして仕切り直しね…お互い…」

「…なに?…ぐ…うっ…」



傷に息を乱していた零が、その場に苦しげにひざを突いた。



「…出血が激しい餓え≠ノつながることもある。気をつけて…?吸血鬼の本性は、とても野蛮で冷酷よ」



チラリとこちらを見てきたまり亜に、数秒考えて珱は刀を下ろした。



「ハンターどもも同じようなものだけどね……私に言わせれば…」



去り際、まり亜が珱の耳元で囁いた。



「私の正体に気づいてるんでしょう…?話があるの…一人で仮の寮に来て…?」



横目に睨みつけるように目を細めて見やれば、まり亜はクスリと笑ってその場を去っていった。



『……錐生くん、大丈夫…そうじゃないね』



零を見れば、苦しそうに喉元をおさえ床に手を突いていた。それでも、こちらを見る瞳から言いたい事は分かる。



『止めた理由…?それが私の仕事だから…それに、あのままじゃ君、死んでたよ』



零と少しの距離を残したまましゃがみ込み珱は言う。



「…仕事…ならっ…あの日もしっかり止めろよ…ッ!!」



紫がかった銀灰色の瞳に、赤が混じり合いを見せる。



「何が番犬だ……役立たずな…」

『…そうだね』



昔を思い出し、そっと逸らしていた目を零に戻す。



『じゃあ、今だけ役に立ってあげる…』



ぐい、と零を引き寄せ抱きしめ、口元がちょうど首に来るようにすれば、一瞬零の体がこわばった。



「やめ、ろ…っ」



押し返した腕にあまり力はない。



『屈辱?君の嫌いな、役立たずな番犬の吸血鬼から血をもらうなんて…』

「分かってるなら…」

『でも…そんな余裕無いでしょ?優姫ちゃんから貰うにしても…殺しちゃうよそのままじゃ』



優姫の名前を出せばピクリと反応を示した零を見て、哀しげな色が珱の瞳に過ぎった。



『…どうする…?』



首を傾げ、首元を晒した珱に零はぐ、と歯をかみしめたが、ゆっくりとその顔を近づけた。首に感じた吐息に思わず身を堅くした直後、鈍い痛みが走った。



『っ…は…』



ゾクリと背筋を駆けたものに声を漏らすと、ぐ、と牙が深く食い込んできた。痛みに思わず眉を寄せると、さらりと髪を絡ませながら後頭部に手を添えてきた。



『…ごめ、ん…』



小さく声に出して言えば、零が首から顔を上げた。睨んではないが不満そうに、不機嫌そうに眉根を寄せながら零は珱を見ていた。



「…なんで泣くんだよ」



目にうっすらと涙の膜を張る珱は、それには答えずふらりと立ち上がった。



『もう大丈夫そうだから…私は行くね。少し休んで君も行きなよ…』



最後の方は零にもう背を向け、なるべく平気そうに歩きながら陽の寮を後にする。陽の寮から離れ、月の寮の敷地少し前の辺りで珱は木に寄りかかりひざを突いた。



『はあ…っ』



くらくらする視界に額に手をやり治まるのを待つ。渇きはまだ来ない…早く部屋に戻って血液錠剤を飲まないと、と珱はふらつきながらまた立ち上がる。



『!?』



いきなり、背後から回された手に視界を塞がれた。反応を示す間もなく、急激な眠気と共に体の力が抜けていく。



『っ…?』



背後にいるだろう相手の顔を見ようと、腕に抱かれたまま目をやるが霞む視界じゃ仄かな輪郭しか見えない。けれど、珱にはそれだけで十分判った。



『りょ…ちょ…』

「…少し、眠ってて?」



穏やかな声で、寂しげな声色を滲ませながら枢が囁いた直後、珱は瞼を閉じた。




  



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