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第十一夜





『…う…』



呻き声と共に目を開けた珱は、額に流れる冷や汗を拭う。溜まり込んだものを吐き出すように、安心したように大きく短く息を吐く。



『………』



起き上がり、時計を見ればいつもの起床時刻より一時間程早い時間を示していた。また眠る気になれず珱は制服に袖を通すと、ある人物の部屋の前まで来た。ノックをすれば、数秒後にドアは開かれた。



「…十六夜?」

『おはよう瑠佳』



出てきた瑠佳は目を丸くしていたが、その端正な顔を不機嫌そうに歪めた。



「まだ寝ていたのだけど」

『うん…ごめん…』



俯き加減に謝った珱の顔を改まってみた瑠佳は気づいた。



「…顔色悪いけど、何かあった…?」

『…………』



どこか脅えているような血の気のない顔に、瑠佳はため息をして中に戻る。



「入りなさい。着替えてくるから座って待ってて」

『…うん』



ソファに深々と座り込みしばらく待つと、制服に着替えた瑠佳が紅茶と朝食にかジャムとスコーンを持ってきた。



「ご飯まだなんでしょ?ついでだから食べて行きなさい」

『ありがと…』



遠慮無く食べ始めた珱に呆れ半分、安心半分にまたため息しながらも自分も手をつけ始める。



「…それで?何かあったの?」

『……夢を…見たの…』



夢?と瑠佳は珱を見る。



『とても気持ちの悪い夢…グロテスクなものを見たとかじゃなく、精神的にくる……そんな夢…内容は覚えてないけど、でも……とにかく嫌だったの…』

「それでここに来たわけ?」

『だって瑠佳の淹れたお茶美味しいから』



きっぱり言い切った珱に瑠佳はお茶目当てかと眉をつり上げた。



『冗談だよ…ただ、瑠佳になら安心して話せると思ったから』

「そ…」



満更でもなくクス、と思わず笑う瑠佳。

元老院や大人からは番犬だなんて言われているが、瑠佳にとってはぼーっとしている友人。そんな物騒な物言いが似合っているとは一度たりとも思ったことはなかった。



「(それでも…)」



何かが動き出した時、この子は番犬として巻き込まれに行かなくてはいけない。否が応でも…。



『…瑠佳?』



自分のことでもないのに眉間にシワを寄せてしまっていたせいか、珱は怪訝そうに瑠佳を見つめていた。



『どうかした…?』

「なんでもないわ。それより、所詮夢なんだからあんまり気にする事ないわよ」

『うん…そうだね…』



ほんの少し微笑った珱。来た時と違いほっと気の抜けた様子に瑠佳は内心安堵する。少しは落ち着いたようだ。



「…でも、夢を見るなんて珍しいわね。疲れてるの?」

『……どうだろ…でも、結構忙しいかも』



立て続けに零の事や夜刈に一翁、元人間の吸血鬼の始末など、考えると色々起こっていたなと疲れが舞い戻る。



「あんまり無理するんじゃないわよ…たまにならまたお茶くらい入れてあげるわ」

『…』



ん?と見ていた珱がこくんと軽く照れながら頷けば、瑠佳は笑い返していた。



next.

  



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