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そうして、何か策はないかと考えつつ、たいした進展もなく。
『ーーーー…そう。ありがとう』
「夏目の親分に、お大事にと伝えてください」
いつかの河童に頷き返して、大した情報が集まらない現状に雪野はため息をこぼす。
「雪野」
『巳弥』
声に顔を上げると巳弥がいた。
「夏目は今日はどうした?」
『家で寝てるよ。学校はちょっと、辛そうだったからお休み』
「…そうか」
表情は分からないが、沈んだ声に雪野は巳弥を見つめる。
『…大丈夫だよ。絵を取り外す方法につい、今妖達に聞いて回ってるから。そのうち見つかるよ』
「そのうちでは、夏目の体は保たないだろう」
遠くを見つめるように顔を上げた巳弥が雪野を見る。
「やはりあの絵は焼く」
『!』
「これ以上、夏目やお前に迷惑はかけられない」
『…迷惑なんて思ってないよ、私も貴志君も。巳弥のために何かをしたいだけ』
「ーーーー…なら、一つお願いをしてもいいか?」
目を瞬かせていた雪野に、巳弥はそのお願いを伝える。
『わかったよ』
眉を下げて笑った雪野は、近くのお店で買い物をすると家へと帰った。その足で夏目の部屋まで行く。
『貴志君、起きてる?』
「ああ」
襖を開けると、布団から起きていた夏目は目を丸くさせた。
「なんだ、その大量の袋…」
『ペンキだよ』
「ペンキ?」
なぜそんなものをと不思議がる夏目の前に、巳弥が現れる。
「夏目、手伝ってくれるかい?」
「…何を?」
「もう決めた。この絵を焼くよ」
「巳弥!」
「いいんだ、もう決めたんだ。でもその前に」
筆を取り出した巳弥は、伺うように夏目を見た。
「最後にこの木を桜で満開にしていいかい?あの人と出会った時のように」
「ーーーーうん」
塔子に叱られるかもしれない。けれど、それでも良いと夏目も雪野も思った。全員ペンキと筆を準備し、絵を中心に桜の花を描いていく。
「ふふ」
二時間ほどして、壁いっぱいに桜の花が咲き誇った。見事な出来栄えに巳弥は満足そうに笑う。
「で…出来た」
「夏目」
疲れ切った夏目はその場に倒れる。
「…きれいだね、巳弥」
もう目を開ける気力もないようで、ぼんやりと夏目は呟く。
「巳弥、八坂さまはねーーーー…」
「ーーーー…ありがとう夏目。おやすみ」
ーーーー目覚めるとのびきった枝も描き込んだ桜も、綺麗に消え去っていた。絵の中をのぞいてみると、もうどこにも八坂さまの姿はなかった。
夏目は絵に手をかけてみた。すると、なんの抵抗もなく、絵は簡単に壁から離れた。
「(はずれた)」
ーーーーその日以来、巳弥はもう訪ねてこなかった。
巳弥、いつしかこの絵には、あの人の心が宿ったのかもしれないね。この絵がおれの力を吸いとって枝をのばしたのは、もう一度君に会うために桜の花を咲かせたかったからかもしれないね。
「(あの二人はまだ、満開の桜に埋まっているのだろうか)」
それとも絵から解放されて、二人仲良く旅に出ただろうか。
「…巳弥は本当のことを話せたかな」
「んァ。何か言ったか夏目」
『?』
雪野と斑を誘い花見に来た夏目は、きょとんとする二人に笑い返す。
「ーーーーいや、何でもないよ」
ーーーーさよなら巳弥。花の季節に出会えた友人ーーーー…。
舞い散る花びらを夏目は眺める。その花びらが、雪野の髪に落ちた。
「…またフリーマーケットにいきたいな」
「ん?今回のことで少しはこりんのかお前は!」
「はは、欲しいものがあるんだ」
雪野の髪から花びらを取ってやり、それを雪野の髪に当てる。目を瞬かせる雪野に夏目は微笑んだ。
「優しい色の髪飾りが」
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