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3


「『ただいまー』」



家へと帰り、自室のある二階へとあがる。



「何だったんだろうな、あの春地蔵の言葉は……」

「…待て夏目。何か妙な気配が」



え?と夏目と雪野は斑の言葉に改めて部屋の中を見た。そして、壁にかかるあの絵を見て目を見張る。



「…絵の中の木が、枝をのばしてる…?」

『何これ…』



絵から壁に根をはるように枝がのびていた。今朝見たときはこんなものなかったと夏目は記憶を辿る。



「…む…?これは…」



気付いた斑。



「そうかこの絵…夏目の力を吸いとっていたんだな。枝をのばしてさらに力を奪うつもりなのか」



ーーーーどろんっ.



「たかが絵の分際で私の獲物を奪おうとは許さんぞ」

「!?先生…」

「春地蔵の言った影とはこの絵のことだ」



本来の姿に戻った斑。



「今すぐ食いやぶってやる」

「先生!!やめーーーー…」



ーーーーこの絵は巳弥のーーーー…。

絵に飛びかかろうとした斑の前に、夏目は咄嗟に飛び出した。

ーーーーだん.



「ぐっ」

『貴志君!』



絵を庇った夏目を、斑は勢いそのままに咄嗟に対応できず壁へと叩きつけてしまった。



「夏目、昨日はありがとう」



その時巳弥が窓から現れた。



「今日は早咲きの桜を持ってき…」

「ぎゃー!アホナツメ、何やっとるーーーーっっ」

「ぎゃ!?夏目!?」



気を失いその場に崩れ落ちた夏目に全員慌てて駆け寄る。



「大丈夫か!?一体どうした…」



心配して安否を気遣っていた巳弥は、気配を感じ顔を上げた。壁にかかる絵からのびる枝を見て、巳弥は愕然とした。その手から、ぱらりと桜が落ちた。



「…雪野…先生、巳弥…」



布団に夏目を寝かせ目が覚めるのを待つと、あまり時間をかけず夏目は目を覚ました。



「すまない夏目」



夏目の傍に座っていた巳弥は、目を覚ました夏目へと謝罪すると、壁の絵へと目を向けた。



「妖が長く持ち歩いたため、この絵も妖力を持ってしまったようだ。そして、お前の強い力を吸いとって、どうやら成長を始めてしまったのだろう」



夏目達に背を向け、壁の絵を巳弥は見つめる。



「壁に根を張りもうはずれまい。このままではお前の命が危なくなる。私は妖力を使ってこの絵を焼いてしまおうと思う」

「!だめだ巳弥」



静かに告げた巳弥の言葉に夏目は慌てて起き上がる。



「大切な絵なんだろう?八坂さまの…」

「いいんだ夏目、本当は気付いていたんだ。あの人は…八坂さまはきっと、訪れなかったあの春にはもう、亡くなっていたのではないかと。丈夫な人ではなかったからね。けれどこの絵と共にした旅は、あの人と共にあったように楽しかった」



雨の日も。

風の日も。

ひとりではないのだと。



「でももう、もう、いいんだ。異形であることなど気にせず、一度だけでも目を合わせて、あの人の目を見て話をしてみたかった未練から、この絵を捨てられなかっただけなのだ」

「巳弥…」



巳弥がぽつりぽつりと語る本音に、夏目は巳弥の名を呟くしかできなかった。だが、巳弥が絵を燃やそうとする姿を見て、すぐにその手を握りしめた。



「待て巳弥。おれはまだ大丈夫だ。もう少しだ、もう少し外す方法を捜してみよう」

「ーーーーしかし」

「大切な絵なのだろう?おれもこの絵好きだよ」



言い淀む巳弥に夏目は優しく微笑むと、雪野と斑に向き直った。



「…雪野、先生、ごめん」

「ーーーーふん、馬鹿馬鹿しい」



苦笑する雪野と、悪態をつきながらも反対しない斑に、夏目はお礼を言う代わりに微かに笑った。



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