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「ーーーー確かにこの絵から妖力を感じる。名のある妖が描いた物だな」
巳弥が帰って、改めて絵を眺める。
「しかしこれはただの絵だ。どんなに待っても出て来などしない。これはただ、冬の並木道と、そこに立っていた八坂という男の姿が描かれたものだ。その男はおそらくもうーーーー」
ーーーーそれでも、毎日巳弥は花を持って訪れた。
「花ふぶきー」
「やめろー!部屋がちらかる」
毎日。
「八坂様、今日はかえるをつかまえてきましたよ」
「か、かえる!?すぐ放せかえる!かえるはキケンだっっ」
毎日ーーーー…。
「ゴホ、ゴホッ」
『あれ…貴志君、風邪?』
「妙な咳だな……む。見ろ、レンゲ畑だ」
「ーーーーうわぁ…」
散歩していた最中、いつもとコースを変えて見つけたのは見事にレンゲが咲き誇るレンゲ畑。感嘆の声が出る。
「こら先生荒らすなよ」
レンゲ畑に突っ込んで飛び出すという動作を、何が気に入ったのか繰り返す斑に夏目は注意する。
「(…巳弥にも少し持って帰るかな)」
斑が暴れるものだから、パラパラとレンゲが宙を舞う。
ーーーーこんな風に、何気なく美しい風景を追って、巳弥はずっと旅をしていたのだろうか。ただの絵を抱えてひとり。
「拝見。拝見」
間近で聞こえた声。一輪手に取っていたレンゲから顔を上げた夏目の背後に、僧侶の格好をした大きな地蔵が立っていた。
「うわぁ!!!」
『!え、誰!?』
「む、そいつは春地蔵だ。春先出回って修行のため吉凶を占ってまわる妖だ」
「お前様に不吉な影が絡みついておりまする」
夏目を見下ろす春地蔵は続ける。
「お前様の屍から木がはえているのが見えまする」
春地蔵からの言葉に夏目と雪野は絶句し面食らう。
「あっ」
告げるだけ告げると、春地蔵は錫杖を鳴らしながら去り始めた。
「待て、どういう意味だ!?屍って…」
「貴志くん、雪野ちゃん」
聞き覚えのある声に雪野は振り向いた。
「どうしたの?大声出してた気がするけど…」
「わっ、とっ、塔子さん!!」
まさかこんなところで会うとはと夏目は、見られてはならない場面を見られ動揺する。
「あの…な……ーーーー何でも……何でもありません」
動揺を押し殺し、夏目はいつものように微笑んだ。
「ーーーー本当に?」
『はい。すみません、ちょっとふざけてただけなんです…ね、貴志君』
「ああ…買い物ですか?」
雪野の言葉に合わせて夏目が問いかけると、むう、と可愛らしく眉を寄せていた塔子はそう。と笑った。
「じゃあ一緒に帰りましょう」
「はい」
笑っていた夏目だが、巳弥の為にと摘んだレンゲを思わず、握りしめてしまった。
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