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桜並木の彼







「なあ雪野、俺の部屋に花を降らせてないか」



学校からの帰り道、唐突にそう口を開いた夏目に雪野は無表情に目を瞬かせる。



『…私そんなフェアリーな女の子じゃないけど…』

「あ、いや…なんか言い方間違えた。俺の部屋に、花を置いて行ったりしてないか?寝てる間に」



慌てて夏目は言い直す。



『そんなことしてないけど…貴志君の部屋、花降ってるの?』

「…なんか、寝てる間に」

『先生がむしってきてるんじゃない?酔って』

「違った」



思ったんだ。と雪野は思う。



「フリーマーケットで買ってきた絵、覚えてるか?」

『ああ。あの、枝だけの絵でしょう?』

「あれを飾った日からなんだよな…やっぱり、今夜は徹夜して原因を調べてみるか」

『私も一緒に見張ろうか?』

「いや、大丈夫。先生もいるし」



そして、その翌日。とうとう花の正体が分かった。



『天井裏にいた巳弥という妖が絵の中に住んでいる八坂さんに花を与えていた…と?』

「そう」

『なんかホラードラマにありそう。天井裏にって…』



見つけた時悲鳴を上げたがそこは内緒だ。



「絵がどうしても外れなくて…今日また来るとか言ってたな」

「ごめんください」



玄関の方から聞こえてきた声に、夏目と雪野は顔を見合わせた。思った通り、やって来たのは巳弥だった。



「手を出せ小僧」

「ん?」

「八坂さまが世話になってる礼だ」



巳弥が礼として持ってきたのは、二匹の蝶だった。



「うわーーーーっ。あ、ありがたいが部屋で放すな」

「あはは。きれいだろう」



ヒラヒラと室内を舞う蝶を慌てて夏目は捕まえようとするが、斑は猫の性か気になる様子。



「八坂さまはもともと「人」だった。花や蝶を見るのがとても好きだったよ」



ーーーー「人」だった。というその部分に夏目は疑問を持った。



「ずっと昔の春、私は桜並木の木の上で花見をしていたんだ。気がつくと下で人の子が書物を読んでいた。満開の花は私の妖力を強くして、うかれた私は桜に隠れたまま彼に話しかけたんだ。彼は八坂といい、体は弱いのだが名家の跡取りで、自由にやる時間もほとんどないのだと言っていた。異形であるこの顔を見せておどかしてやるつもりだったが、彼があまりに楽しそうに話すから私はその機会を失った…そして妙なことに、翌日も彼はやって来た。彼は私が妖だと気付きもせずに通ってきては話をした」



やがて、妖だと気付かれることが恐くなった。



「だから身を隠す花のない時期は、あの並木へは行かなかった。私達は、花の季節にだけ語らう友となったのだ…そんな春が数度過ぎた頃、ある春ぱたりと彼が来なくなった。待てども待てども、次の春も、その次の春も。私は彼を探しまわった。どこを探せばいいのかもわからないまま、かけずり回った」



そしてついに見つけることが出来たのだ。



「絵師として有名な妖が冬のあの並木を描いた絵があると聞いて見にいくと、その絵の中に八坂さまがいたのだ。ーーーー人の世が疎ましくなって、絵の中に逃げこんでしまったのだろう。だから私はその絵をもらい、彼を慰めるため共に旅を始めたのだ。ーーーーいつの日か彼の心が癒えたら、きっと絵から出てきてくれるだろう。そしてまたふたたび語らうのだ」




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