![](//static.nanos.jp/upload/tmpimg/53618/95.jpg)
7
夏目達を見失ったスミエだったが、少しずつ夏目達への距離を縮めつつあった。
「臭うぞ臭うぞ、この部屋か。ふふ、食ってやる。人間共め、全員食ってやるぞ」
嗅ぎあてた部屋の襖をスミエはそっと滑らせた。
ーーーーひらり.
戸に挟まっていた連なる紙人形が、スミエを捕らえるように円を描く。紙人形を操る名取の後ろには、陣の真ん中で杖をつく雪野と、壺を構える夏目がいた。
ーーーーぐいっ.
「ふふ」
ーーーーひゅる…
「ちっ」
「!すり抜けた…」
はっと雪野は顔を上げた。紙人形を避けたスミエが、雪野へと標的を定めた。
ーーーーバッ.
『!』
名取が庇うように雪野の前に出た時だった。
ーーーーがしっ.
「ぎゃ」
「鈴木殿に危害を加えることは許さんぞ」
『!?』
突然現れた妖にも驚くが、こちらに好意的な様子に戸惑いを見せる。
「探しましたぞ鈴木殿。お忘れか?私のために橋を架けて頂いた」
三つの目を細めて笑う妖に、はっと雪野は思い出す。雨上がりに見つけた、小人たちが担ぐ御輿の中身を。
「こやつは私が連れ行き清めましょう」
スミエの頭を鷲掴み妖は言う。
「これで借りは返しましたぞ。さらば」
「ぎぁ…」
ーーーーゴッ.
「「『!』」」
妖がスミエを連れて姿を消した直後、室内に吹き荒れた突風。咄嗟に閉じた目を開けると、室内にはぱらぱらと紙が舞っており、終わった、と認識した直後、夏目、雪野、名取はその場にぐったりと倒れ込んだ。
「…雪野、いつの間にあの妖と知りあったんだ?」
「しかもなかなかの大物だぞ」
温泉旅館妖退治も解決した翌日、夏目と斑は雪野に尋ねた。
『少し手助けしただけだよ。なんか困ってたから…まさか借りを返しに来るとは思わなかった…』
「お前はまたやたらに妖と関わりおって!夏目化してきてるぞ!」
「なんだよそれ」
なんとなく夏目はム。
「夏目、雪野」
フロントでチェックアウトしている名取を待っていると、柊が声をかけてきた。
「名取(あのひと)は封印されてるはずの妖を確認に来ただけだよ。せっかくの旅行だから、お前達と話でもしたかっただけなんだ」
「ーーーーうん。おれも話したいことがいっぱいある。いっぱいあるのに」
ーーーー名取さんにも、藤原夫妻にも。
「話したいのに、うまく出てこない。知られるのが恐いんだ。恐がられるのはなれていたのにーーーーでも、いつかきっと…」
きっと話そう。
本当の心を知ってほしい人達にーーーー…。
「お待たせ。悪かったね、またまきこんでしまって」
「いえ、本当に楽しかった。懲りずにまた、たまには会ってくれますか?」
「ーーーーああ、もちろん」
表情を柔らかくした名取に夏目は笑い、雪野は微笑んだ。
「さあ、帰ろうか」
「はい」
斑を抱えて、雪野は歩き出した夏目と名取に続こうとした足を止めた。ちらりと振り向いた旅館を名残惜しげに見ながらも、すぐに笑って二人の後を追った。
next.▼ ◎