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雪野と斑が追いついた時、タマを庇う夏目にネズミが襲いかかるところだった。
「!夏目」
『貴志君っっ』
ーーーーカッ.
夏目の腕の中にいたタマから光が放たれた。眩しさに目を閉じた雪野は目を開け、目の前の光景を凝視した。
「タマ…」
鱗をまとった大きな体に、大きな翼。頭から生えた角が、かろうじてタマの面影を残していた。
ーーーーガッ.
「!やめるんだタマ。もう放してやれ」
ネズミにタマは食らいつくと、噛み砕かんばかりに嘴に力を込め始めた。
「ぐ…」
「やめろ、死んでしまう」
『タマ!お願いやめて』
「ダメだ!タマ!!」
「近寄るな夏目。成長の衝撃で我を忘れてる」
「ならば落ちつかせる」
「よせ夏目…」
「タマ…」
ーーーーバンッ.
抱きしめたら、もしかしたら思い出すかもしれない。そう思い近づいた夏目だったが、タマの翼に跳ね飛ばされてしまった。
「ちっ」
ーーーーどろんっ.
本来の姿に戻った斑。
「フーーーーッ…フー…」
焦点の合わない、何も見えてないタマの目を斑は訴えかけるように見つめ返す。
「フーッ…フー…」
徐々にタマの興奮が治まってきたのがわかった。ネズミを咥えていた嘴からも力が抜ける。
「帰ろう、タマ」
上半身を起こし、夏目はタマの嘴に触れながら笑いかけた。
「帰ろう」
夏目の温もりに、タマは過ごした日々を脳裏に思い出した。正気に戻ったとその目を見て感じ取った夏目達を、タマは背中に乗せてやった。
「…すごいなタマ。鳥みたいだ」
満月をバックに空高くを飛ぶタマ。風を感じつつ、夏目は目を閉じた。
「聞いてくれタマ。おれもね親の、本当の親の姿は知らないんだ。ずっとひとりだったんだ」
雪野と斑も夏目の話に耳を傾ける。
「そのことは…変かもしれないけど、あまりさみしくなかった気がする。でも、とても悲しかったんだ。それが、今はもう悲しくはないんだ。タマ、君もそうならいいな」
ーーーー夏目達をおろすと、タマは藤原家の上を数回旋回した後、遠くの空へ旅立った。
「ケガは大丈夫か?」
「まあな……しかし、成獣も美味らしいが凶暴で手が出せん。主に叱られるな…」
町を出るらしいネズミの見舞いと見送りにやって来た。
『はいこれ、見舞いのタイヤキ』
「…随分珍妙な形をしている」
「「…」」
目をそらす雪野とノーコメントの夏目と斑。
「ーーーーすまなかったな、卵横どりしてしまって」
「ーーーー何、また探すさ。成獣が一匹旅立ったのだ。いつかはそれの卵が、どこかで新しい命をかえすさ」
ーーーータマの残していった巣をあの後こっそりのぞいてみた。
片目を閉じ、タマが新聞紙で作ったお手製の壺型の巣を夏目は覗き込む。
ーーーー中身はやっぱり空だったけれど、その底に残っているものを僕は知っている気がした。
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