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「……む?」
夏目の準備を待っていると、寝ていた斑が目を覚ました。
「うおっ。何じゃこの卵はっっ」
「あ、おはよう先生。どうせ暇だろ?あっためてみてくれないか?」
巣に残っていた卵を夏目は斑にあたためてもらおうと、夜中こっそり忍ばせたのだ。
「何!?お前、阿呆極まれりだな。捨てられた時点で卵なんてもんは死んどるもんだぞ」
『ヒナがかえったら美味しいかもよ先生』
「なるほど」
あっさり納得した斑にチョロい。と二人は内心思いつつ家を出た。
「!雪野」
『え?…あ』
門柱を見ると、「陸」の落書きから「伍」の文字に変わっていた。不思議に思いながらも遅刻してしまうので登校。
『(…また変わってる)』
翌日には「肆」の文字になっていた。さらにその翌日には「参」の文字。
『(なんだろあの文字)』
よくわからず不思議そうにしながら、塔子と作ったタイヤキを頬張る。味は良いが斬新な形になったタイヤキを見て、夏目と斑はノーコメントだった。
「…あっ」
ーーーー二日後。
「せ、先生卵が」
「何!?ヒヨコヒヨコ」
なぜか少しずつ大きくなっていた卵。それがとうとう、かえる時が来た。
ーーーーカッ.
「『!!』」
ーーーーぱりん.
光を放ちながら割れた卵。もぞもぞと動く影をよく見る。
「「『!!!?』」」
ーーーー何!!!?
生まれたのは、黄色くてふわふわしたヒヨコではなかった。
『(ひ、ひとがた!?)』
頭から角を生やした小人に、一同フリーズ。
「くしゅん」
「あ」
しかし、生まれた雛?を前にいつまでもボーッとしている場合ではなかった。
「わー産湯産湯!」
「わータオルタオル!」
『わー着る物着る物!』
バタバタと大慌てで準備。産湯にはお椀を使った。気持ちよさそうに入る雛は、斑と間近に見つめ合う。
「くっ。こいつ喰えるのか?この私にガンとばしたぞ」
「わけわからないもの食べるとお腹こわすぞ先生」
「…むむ?その角、そやつ辰未という妖のヒナではないか」
「…タツミ?」
湯から出してやり、夏目はヒナの体を拭いてやる。
「鳥と竜に近い妖で自分達では子育てをしない。だから数も少ない。ヒナはかえって最初に見た生物の形に変化するらしい。ある程度まで育ててもらったら、本来の姿となり旅立っていくときいたことがある」
「…へぇ。じゃあ先生を先に見てたら招き猫型のヒナになってたのか…」
『見てみたいような、見たくないような…』
想像すると可愛いのか微妙だった。
「まぁともあれ、無事生まれてよかったな」
そう夏目が声をかけると、辰未のヒナははにかむように笑顔を見せた。
「よし、こんなもんかな」
ヒナサイズの服などないので、ハンカチのお手製だ。ニコニコと無邪気に笑っているヒナに、夏目や雪野もつられてニコニコニコニコ。
「『はっ』」
我にかえる。
「…一体何日くらいで育つんだろう」
「さぁな。辰未の成長は早いと聞くが、詳しくは知らん」
『とりあえず育つまで面倒みなきゃだよねえ』
「何を食べるんだろう。ミルクで大丈夫だろうか」
「案外人肉かもしれんぞ」
辰未のヒナの目が、斑の尻尾に向けられた。
ーーーーがぶっ.
「ぎゃっ!!?」
「ああこら腹こわすぞ!!」
『(人肉より妖肉…?)』
斑の尻尾にかじりついた辰未のヒナ。
「何たる恩しらず。このマッチ棒より私のほうがこうけんしたんだぞーーーっっ」
「マッチ棒とは聞き捨てならんぞ先生!!」
喧嘩を始めた夏目と斑に、巻き込まれないよう雪野は辰未のヒナと避難した。
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