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雛 かえる







「『ただいまー』」

「お帰りなさい。見て、今日は鯛焼き作ってみたのよ」



うきうきと塔子は、鯛焼き三つ分乗ったお皿を差し出した。



「うわ、うまそ…え!?タイヤキって家で作れるもんですか?」

「焼き器いただいたの。今度これでオムレツ焼いてみましょうね」

『はーい』



制服から着替えて、夏目の部屋に集合し鯛焼きとお茶をいただく。



「うまい…」

『うん』



幸せそうに、鯛焼きを咀嚼し味を噛みしめていた時だった。

ーーーーミシ…

何かが軋む音に、夏目と雪野は顔を見合わせた。

ーーーーみし…

音の出所は、畳の隙間。よく見ると何かが隙間から生えて…。

ーーーーずずず.



「『ぶっ』」



うっ、わーーーーっっ!!!

隙間から、長い黒髪と共に腕が這い出てきた。たまらず二人は悲鳴をあげるも、理性が働きなんとか掠れたものだった。



「な…」



部屋いっぱいに縦長の体に、乱れた黒髪の隙間から覗く一つ目。



「………もじい」

「え」



なんだなんだと硬直していた二人に、その妖は覆いかぶさるように詰め寄った。



「…ひもじい、ひもじい。何かくだされ。何か、くだされ」

「『………』」



お腹が空いてる様子の妖に、二人は再び顔を見合わせるが脱力した様子。



「…ホラ、食ったらかえれよ?」



一つ残っていた鯛焼きをやると、妖はもぐもぐと大人しく食べ始めた。

ーーーーカラ.



「お、夏目、雪野帰ったか。今日は家の者が鯛焼きとやらを作っておったぞ…」

「ニャンコ先生」

「む?」



現れた斑が鯛焼きを食べる妖に気づく。



「ぎゃっ、喰ってる!!私のタイヤキは!!?おのれ、然ば貴様らをまる飲みにしてくれるわーーーーっっ」

『…私の半分あげるから』



本来の姿に戻っていた斑だが、雪野に鯛焼きを譲ってもらうと大人しく食べ始めた。



「先生、用心棒なんだろ?なんでこうスポスポ妖が家に入ってくるんだ」

「アホウ、奴は隙間を移動する「間」という妖だ。なかなか大物だし害はないぞ」

「ありがとうございました。お礼に良いことをお教え致しまする」

『良いこと?』

「この家の庭の木に鳥が巣を作っておりまする。今日、それらは巣を旅立って行きまする」



そう言うと、間は天井の隙間から去って行った。



「待てい!何だそのお得感0な情報は!」

『…良い話だと思うけど…ほのぼのしてて』

「でも鳥の巣があるのは本当だ」



早速庭へと出て見る。



「卵を五つあたためていたんだ。今は四羽がかえったんだけど…門柱近くのほら、この木だ」

『本当だ』

「もうチェック済みか。さては喰う気か」

「先生食うことばっかりだな…」



ん?と、雪野は目の端に人影を見た気がして振り向く。



『あれ…?』

「どうした?」

『今、門柱の所に誰か…』

「誰もいないぞ?」

『いたと思ったんだけど…』



確かめに出て門柱を見てびっくり。門柱には、「陸」という黒字が大きくあった。



『なにこれ!?』

「誰だこんな所に落書きを!くそう落ちん…」



雑巾で拭き取ろうとしたが、全く落ちなかったので諦めるしかなかった。



「ふふ」



中に戻ると、居間から塔子の可笑しそうな笑い声が聞こえた。



「塔子さん?」

「はっ。貴志くん…雪野ちゃん」



こちらに気づいた塔子が慌てた様子を見せる。



「そのいびつな大量のタイヤキは…」



テーブルの上のボウルには、生地からあんこがはみ出たり歪んだりしたタイヤキが大量にあった。



「ふふ、失敗しちゃって…でも大丈夫。こんなのペロッと食べちゃうわ」



柔らかく笑った塔子を二人は見つめた。



「…おいしかった?」



一生懸命、綺麗に焼いてくれたんだろう。嬉しくて、笑顔がこみ上げた。



「ーーーーはい。だからおれも一緒にそれ、食べてもいいですか?」

『私も』



二人の申し出に、塔子は嬉しそうに微笑った。



「ーーーーええ、もちろん」




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