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8


外に出た夏目達は、名取の指示に従って妖を封印するための準備をしていた。



「腕は大丈夫かい?」

「はい。柊の字のおかげで……柊は無事でしょうか」

「君程無茶はしないさ」



腕を痛めた夏目に代わり名取と陣を指示通り描いていた雪野は、その言葉に同意するように目を細めた。



「よし、陣が出来た。道具も足跡だが…やり方は今教えたとおり、落ちついて」

『はい』



近づく気配を夏目は感じ取った。



「来ます!先生が奴をこっちへ追ってきます」

「よしやるぞ」



ーーーーぱんっ.



『出よ、我はその手を求む』



柏手を打った雪野は名取と共に陣に向かって杖代わりの木の枝を突き立てる。



『掴め。闇を守りし者よ』



こちらに向かって急降下する妖に向かって札を掲げると、背後から黒く細い何かが飛び出した。



「!ぎゃっ」



しゅるりと妖にそれは巻きつき、壺の中へと吸い込まれる。

ーーーーどんっ.

勢いよく、音を轟かせて妖は壺の中に。衝撃と展開に思わず目を瞬かせて壺を眺めていたが、それどころじゃないと我にかえる。



「ふっ、蓋!」

『はっ、はい』



慌てて雪野と名取は壺に掴みかかり、唯一の出入り口に蓋をした。



「ーーーー……………お…おわった…」

「まさか成功するとは…」

『…』



どろんっと、斑が招き猫になり脱力する雪野の背中に蹴りを入れた。



「あほう共め。私まで吸われたらどうするつもりだ」



もう言い返す気力もなかった。一安心する夏目へと名取は顔を向けた。



「ーーーー悪かったな夏目。会合にくればひとりでないことがわかるかと思って連れて来たけど…雪野ちゃんや君ほどの力を持つ者は、あまり顔や名を人間に知られないほうがいいかもしれない」

「名取さん…」

「ーーーー夏目。何を焦っているのか知らないけれど、人間は無茶したって強くはならない。まずは自分を知ることだ」



夏目の違和感は感じていた名取はなるべく優しく諭した。



「ーーーー…はい」



その通りかもしれないと、素直に夏目は頷いた。

ーーーーにゅうっ.

突然、つい今しがた封印した妖の壺に羽が生えた。かと思うと壺は飛んで行き、その行き先にはーーーー…。



「いやはやお見事。悪いがこれはもらっていくよ」

「!!七瀬さん!?」

「言ったろ、強い式がほしくてね。この妖には目をつけていたのだ」



壺を手に笑う七瀬。



「いらなくなったカラスを餌にして捕まえようとしたが逃げられてしまって、あきらめようかと思っていたんだよ」



カラスということに、片羽を喰われてしまったカラスだと合点がいく。



「妖を…式だった鳥を餌にしたっていうのか!?よくもそんな…その壺を返せ!!」

「返してどうする?会合へ持っていけば退治されてしまうぞこの妖。人に害を成し退治されて当然な化物を、人のために使ってやろうと言うのだ。名取、賞金の金額は的場が払おう。後日屋敷へ来い」



ではな。と七瀬は壺を奪い去って行ってしまった。



『…いい性格してますねあの人』

「言っただろう、いけすかないと…」



ーーーー返してどうする?っていう問いが…答えが出なかったけれど、この後味は違う気がする…。

晴れない気持ちにため息しつつ雪野は斑を抱き上げて夏目に振り向いた。



『貴志君、帰ろう』

「……」

『…貴志君?』



意識が別の場所に向かっている虚ろな、遠くを見る目に雪野は面食らい口を閉じた。



「夏目!」



はっ、と。斑の声に夏目は我にかえる。



「帰るぞ」

『塔子さんが待ってるよ』



呆然と雪野たちを見つめていた夏目だったが、ぽん、と頭に温もりが。見上げると、名取が笑いかけており、気づいた夏目も微笑んだ。



「そうだな、帰ろう」



星が輝きだした夜道を三人並んで歩いていく。



「ふん。どうせあの女には使えんさ」

『…え?』

「お前がかけた封印がそう易く解けるものか」

『……』

「主さま」



草むらから、柊が現れた。



「柊、ごくろう様」

「申し訳ありません。不覚にもふっとばされまして」

「よかった無事で」

『あの魔除け文字、役に立ったよ』



ふと隣を見た雪野は、決意したように前を見据える夏目に気づき、何が見えるのかとなんとなく同じ先を見たが、星空が見えるだけだった。





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