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廊下の掲示板がふと目に入った雪野は、名取が狙うあの妖の張り紙を見つけた。
『(あのカラスは大丈夫かな…)』
夏目の部屋で安静にしてある妖鳥を思い出す。そしてはっと思う。
『(なんだって心配を…いやでも大怪我だったし、助けを求めた相手を例え妖だろうと放っておくのは…)』
「名取さん」
「ん?」
口を開いた夏目の声に、複雑な心境の思考を一時雪野は中断させた。
「おれを探す時に飛ばした紙人形で、あの化物を探せませんか」
「いや、名を知らないからおそらくは無理じゃないかな…あ、待てよ?この会場には気が満ちているし、君程の力があればひょっとしたら飛ばせるかもな」
「!お願いします」
笑う夏目の珍しい様子に名取は面食らいながらも了承し、控え室へと場所を移動した。
「その陣の上に手を出して、目を閉じたら相手の姿を頭に描く。探すよう命じながらね」
名取が描いた陣の上に紙人形を置いた手のひらを差し出す。目を閉じ、言われたように妖の姿を思い浮かべて探すよう命じると、紙人形が手のひらから浮いた。
「ーーーー行け」
ーーーービュン.
夏目の手のひらから紙人形が飛び出した。
ーーーーばりんっ.
「!?」
窓ガラスを突き破り紙人形は外へ。
「わーーーーっっ。ガラスを!!」
「ごめんごめん、窓あけ忘れた」
「えっ」
「しかし初めてで成功するとは…」
しみじみと名取は呟く。
「本当は人形を追うのがいいんだけどあの早さでは………ん?」
ーーーービュッ.
「!もどって来た!?」
旋回した紙人形は夏目の隣をすり抜け館内へ。
『失敗…?』
「ーーーーいや…」
「妖力の強い人間は美味だから、喰いに来ているのかもしれんぞ」
つまり、目当ての妖はこの建物の中にーーーー…。その可能性に、すぐさま三人は紙人形を追って走り出した。
「柊」
「先に行きます」
人間よりも速い妖である柊が先に行く。夏目達も必死に追いかけるが、紙人形のスピードにはついて行けず見失う。
「くそう。ここは妖の気配が多すぎてーーーー…」
足を止めた夏目の目が、隣の大広間に向けられた。
「お、名取どうした」
「その子が新しい式かい?」
大広間で談笑していた人達が気づき声をかけるが、夏目は目もくれず何かに集中している様子。
「ーーーー夏目?」
「静かに」
ーーーー…サ……サカサカ…
微かに聞こえる音。
ーーーーカサカサカサカサ.
紙の音だ。その音を辿り、雪野は顔を上げた。
『…天井に、紙人形がーーーー…』
夏目と名取も見上げる。夏目が飛ばした紙人形は、天井に張り付いていた。考えるよりも先に、紙人形に天井からじわりと赤黒いものが染み出しはっとする。
ーーーーポタポタポタ.
「!」
ーーーー血!?
「みんなさがって…」
ミシッ、と…天井から軋む音がした直後ーーーーどおんっ!
「ふ〜〜〜〜」
「うわ、何だ…」
天井から、賞金首の妖が降ってきた。
「出たな」
「!」
妖の左目上に刺さる柊の太刀に夏目は気づく。
「うわぁ!」
暴れ出した妖を見て、夏目は襲われそうになった人々の前に出た。
「やめろ!」
ーーーーがぶっ.
「なっ…」
『貴志君!!』
庇った夏目の腕に妖が喰らいついた。
「こ…」
ーーーーゴッ.
「この!!」
「!ぎゃ、ぎゃっ」
「うわ」
妖の顔面を拳でめいいっぱい殴りつけると、怯んだ妖は広間を逃げていった。
「に、逃げたぞ」
「おい君大丈夫か」
痛みはあるが、腕はあるし怪我もない。夏目の喰われた腕は、柊が魔除け文字を書いてくれた左腕だった。
『先生!!』
「…………ちっ」
ーーーーどろんっ.
「追ってやるわアホウ」
雪野が皆まで言わずとも本来の姿に変化した斑は、すぐさま妖を追って部屋を飛び出した。
「何だ!?あのような大きな式…」
「名取、あの子は一体…あの化物を拳ひとつで追い払うとは…!!」
大騒ぎのその場を、問いに答えることなく夏目達も飛び出した。
「!名取、小僧、嬢ちゃん。追うな喰われるぞ」
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