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「七瀬さん。こちらが友人の夏目くんと雪野ちゃん、そちらがうちの柊です」
それぞれを示しながら名取が紹介すると、七瀬は目を丸くさせて夏目の面を軽くズラした。
「…ナツメ…?…君、ひょっとしてレイコを…夏目レイコを知っているかい?」
「ーーーーえ」
目を見晴らせる夏目の隣で、雪野も驚き七瀬を見つめる。
「…祖母をご存知なんですか…?」
「ーーーー祖母?では君はお孫さんか…」
納得した七瀬は、よくは知らないんだ。と謝罪をする。
「ただ時々妖達の話にのぼるのでね。とてもきれいで、強い力を持ったひとだったと…」
「ーーーーそうですか…」
ぎゅっ、と夏目は胸元を握りしめる。
「まだご健在かい?」
「ーーーーいえ…若いうちに亡くなったらしいです」
「亡くなった…ご病気?事故?それとも、妖にでもーーーー?」
からかいや好奇心ではないことは表情から分かったが、妖によるものなんて夏目は考えもしていなかった。
「……え、いえ…そんなことは…」
だから、思わず口ごもってしまった。雪野まで思わず息を飲んだ。
「どんな風に亡くなったんだい?お身内でしょう知らないのか?」
「…詳しくは知らないんです。小さい頃、どこかの木の下で亡くなっていたと聞いたことがあるだけで…」
「…知りたいとは思わなかったのかい?」
「ーーーーそんなこと、きける立場じゃなかったんです」
ーーーー……ずっと…誰にも、こんな風に祖母について尋ねてくれる人間もいなかった。
「ーーーーそうか、すまない」
ふわりと、七瀬は夏目の頬に手を添え微笑んだ。
「だがもうひとりで戦うことはないよ」
名取は様子を伺うように傍観する。じっと七瀬を見上げていた夏目は、そっと目を閉じ握った拳を震わせた。
ーーーー本当に…?本当にもうおれは…人を信じてもいいのだろうかーーーー…。
「じゃあね、ゆっくりしていくといい。きいたよ名取、賞金首狙うって?」
「ええまあ、金も入りますし」
「はは。あれに式を喰われた者も結構いるらしいから、懸賞金もかかったんだろう。お前に退治できるレベルの妖とは思えんな」
「ええ、退治は無理でも封印くらいなら出来るでしょう」
引く気のない名取を感じ取った七瀬は笑みをたたえる。
「…成程。お前程の力なら可能かもしれないな。餞別がわりにこの魔封じの壺をやろう」
ポイッと七瀬は懐から取り出した手のひらより一回りほど大きな壺を投げ渡す。
「あまり自棄を気取るなよ名取」
「どうも」
名取が壺をキャッチすると、七瀬は背を向け会場の奥へと消えていった。
「ーーーー的場一門はどうもいけすかないな…大丈夫かい」
「あ、はい…色々驚いただけです」
「ーーーーお祖母さんも、妖を見る人だったのかい?」
「はいーーーー…」
はっと、何気なく答えていた夏目は気付いた。名取にはレイコのことも、友人帳のことを話していなかったことを。
「(…話すべきだろうか、「友人帳」のこと…)」
しかし、妖相手だけでこの騒ぎ。人間からももしかしたら、狙われることになるのかと考えてしまい…。
「……」
気分が重くなり、青ざめた顔になってしまった。
『…貴志君?急に空気が重たく…』
「…少し風にでもあたろうか…」
見兼ねて名取はそう提案して会場を出た。
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