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翌日。夏目が行くというので、ならばと雪野と斑もやって来た。
「確かこの辺のはずだけど」
「こっちか飲み会会場は」
『「会合」。ごきげんだね先生』
「ナマグサ坊主はけっこう美味らしいからな」
「『……』」
理由が理由で深く聞きたくない。
「ようこそおいでだお客人」
すぐそこから聞こえてきた声。
「入口はこちら」
北口と印された番傘をさした一つ目の妖がいた。
「成程。妖に案内させれば見えない人は辿りつけないわけか…」
「この辺りも変わったな。昔は大物な妖共が治めていたのに、ほとんどが人間に狩られたからな」
「狩られた…」
後方で辺りを見渡していた雪野は、ガサリと草が揺れる音に振り向いた。
「おや、お嬢ちゃん。こんな森で何を?」
草むらから現れた二人組はお面をつけていた。
「ひょっとしたら会合へ?私達もなのだよ。さあさあこっちだ」
『え…貴志君…』
「雪野?」
「一緒においで」
気付いた夏目の足元で斑が睨むように目を細める。
「それに触るな」
雪野に伸ばされていた手がピタリと止まる。
「その子に触れたらその猫に喰われてしまうぞ。ギンジ、アイカワ」
「名取さん」
目を瞬かせる夏目と雪野。
「ぎゃっ。これは名取の若さま!別に喰べようとしたのではありませんよ」
『(妖!?)』
人と思っていたらしい雪野は喰べる発言にぎょっとする。
「お前達がいるということは、的場さん来てるのか」
「はい、名取さまが捕った新しい式を見たいと。ではではこれにて」
そそくさと二人組は草むらの奥へと消えていった。
「やれやれ。やはり子供を連れてくるのはまずかったかな」
『今さら何ですか…』
「新しい式って?」
「「柊」だよ。この前君達が助けてくれた」
名取の傍らには、亀裂の入ったお面をつけた柊がいた。
「やあ」
『久しぶり、柊』
「……」
無言の柊に雪野は微笑う。
『ーーーー挨拶ぐらい返してよ。それとも人間は嫌い?』
「…お前も会合へ?」
『うん』
「…脱げ」
『え?』
「さっさと脱げ」
『ええーーーー!!?』
「何事だ柊!?」
「ならお前から脱げ」
「わ、わーーーー!!?」
脱がしにかかった柊に、思わず夏目は夢中で拳を振るってしまった。
「はっ。すまん柊つい…」
「…では腕を出せ」
「ーーーーえ」
夏目と雪野の左腕に、柊は筆で友人帳にもある文字を書いた。
『なにこれ?』
「魔除け文字だ。本来は心臓の上に書く。これで喰われてもまぁ左腕だけは残るだろう」
「…へぇ」
それは意味があるのだろうか。だが、柊の親切心に二人は笑顔を浮かべた。
「そうか、悪かったな。ありがとう」
お面で柊の表情は分からなかったが、少しは笑い返してくれているといいなと雪野は思った。
「耳なし芳一は耳を食われたように、お前達は本体を食われるんだな」
「食われないよな」
「『先生がいるんだから』」
不吉な物言いの斑に二人はそう返した。斑は用心棒のはずなのだから。
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