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「いいですか?妖が見えることは秘密ですからね」
「了解してるよ」
本当にわかってるのか…?不安そうに雪野はジト目を名取に向けていた。
「ただい…」
不自然に途切れた夏目の声。見開かれた目に映るのは、玄関先から中へと続く赤黒い液体。
「!…血?」
『!!』
「塔子さん!?」
慌てて引き戸を音を立てて開けると、大きな血だまりが。
「!!」
「あら」
血の気を引かせていた二人の耳に、聞き慣れた声。
「お帰りなさい貴志くん、雪野ちゃん」
「!と、塔子さん…」
畳んだ洗濯物を手に出迎えた塔子は、呆然とする二人に目を丸くさせる。
「どうしたの?青い顔して…まぁ、お客様?」
足元の血には目もくれず、塔子は名取を見て声を弾ませる。
「…友人の名取です」
「まぁまぁお部屋へどうぞ。お茶を持っていきますわ」
「お構いなく。おじゃまします」
パタパタと塔子は急ぎ足に奥へと消えた。
「これは」
塔子には見えなかった大量の血は、左の廊下へと続いていた。
「妖の血だ。あっちへつづいてる」
血を追って、廊下を進み曲がり角を曲がると、血は階段の上まで続いている。
「お前たちの部屋へつづいてるな」
「何なんだ」
『これおちるのかな…』
普通の人間には見えないとはいえ、ずっとこのままは嫌だ。
「油断しないほうがいい。門柱に表札があるだけで、家人の客以外には多少の結界にはなってるものだ。それを入りこんでいるとは、害のない小物か隙をつくすばやい妖か強力な妖か…しかし」
呆れたように名取は斑を見下ろした。
「そのニャンコは何のためにいるんだい?進入を許すとは…」
「『もっと言ってやってください』」
「あほう私はそいつらについとるんだ。家守なんか中級のやることだ」
「いいかいタマちゃん。招き猫ってのは、財福を招くだけじゃなく、名のある者に焼かれた高貴な物は家守も兼ねるものなんだよ」
「私のプリチーな外見にだまされるな、ひよっ子。ニャンコじゃないと言っとるだろうが!!」
「うわぁ。これ、おれの部屋につづいてる…」
口論する一人と一匹は置いといて、二人は血を追いかけ夏目の部屋へ。
「…押し入れに…」
その血を目で追っていくと、押し入れの中に続いていた。
「障子を開けたら一面に巨大な顔がって昔話であったな」
「…やめてくださいよ」
この場面だとシャレにならない。
「ーーーーあけます」
そっと、緊張した面持ちで夏目が襖を開ける。はっ、と雪野が息を飲んだと同時に、名取が夏目の前に出た。
ーーーー押し入れの中には、ぎょろりとした目をした巨大な顔があった。
ーーーービュッ.
『!』
「わっ!?」
驚きに言葉をなくしていた隙に、その巨大な顔は窓から逃げた。
「!ーーーーあいつは…」
「一体何なんです?」
『…何か食べてたみたいだけど……う』
思わず引きつった声を上げた雪野に、夏目と名取も押し入れの中を見た。仕舞われていた布団の上に、血塗れで片羽の男が横たわっていた。
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