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8


橋の上まで来て、しゃがみ込む人の姿を見つけた。



『たかしくん?』



そっと、雪野が声を掛けると、しゃがみ込んでいた影が一度揺れて振り向いた。



「…雪野!?」



思ったとおり、その影は夏目だった。傍らには斑の姿も。



「なんだ雪野、お前も来たのか」

「なんでここに…ていうか、こんな時間にうろつくなよ」

『…ホタルは?』



恐る恐る雪野が尋ねると、夏目は一度口を閉じると話した。蛍の妖であるホタルは、実体を持たないが一度だけ蛍のすがたに戻ることが出来る。その代わり、虫としての寿命で命は尽きてしまう。

それでも、ホタルは言ったのだ。もう一度、虫の姿でもいい。あの人に会いたいと。



『(妖のせいで、妖なんて見るから、たくさん泣いたしうっとおしかった…でも…)』



なんなんだろうか…この、気持ちは…。

ふいと、闇の中に光が見えた。



「ホタル?」



夏目と雪野の間を、蛍がすり抜けた。目で追いかけるも、その姿はすぐに遠ざかった。



「さよなら、ホタル」



ーーーー耳もとをすりぬけていった小さな蛍は、何かをささやいた気がした。けれど妖ではない虫の言葉は、私達にはわからなかった。

ーーーーあの人にはわかるだろうか。蛍の言葉が。あの人にだけは。



「幸せそうだ」



教会で行われていた章文と女性の挙式を、夏目と雪野は斑を連れて見に来ていた。親族達に祝福され、女性と共に章文は幸せそうに笑っていた。



「ホタルもどこかで見てるだろうか」

『…見るために来たんだもん。きっと、見てるよ』



初日を思い出し、クスリと笑う。



「はぁ…見えるのに何もしてやれないのはつらいな」

「お前はあほうなんだ。いちいちしてやる義理などないだろうが」

「………」



妖と人は

所詮別ものだ。



「言っとくがな夏目、雪野。お前達が見えなくなったとしても、友人帳を頂くまでは逃がさんからな」



たとえいつの日か

妖というものが姿を消しても

出逢った思い出は

けして消えることはないだろう。



『だったら先生、約束を忘れないでよ』

「用心棒とやらにはげんでくれよ、先生」



それはけして、何ひとつ。




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