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『(幸せそうな笑顔だったな)』
斑を腕に抱え、夏目と共に帰路を歩いていると、前方に淡く光る姿を見つけた。
「ーーーーキヨ」
「もう暗い。私が夜道をてらそう」
「ーーーーキヨ、今の話…」
「聞いていたよ。大切な人を見つけたんだな。よかった、あの人はもうひとりではないんだな」
お面を外しているキヨの表情はよくわかり、よかったーーーーともう一度呟いたキヨの表情は、安心していたが儚げだった。
『ーーーーねえ、先生』
夏目とキヨの後ろをついて行きながら、雪野は腕に抱く斑に尋ねた。
『蛍達が見守った山神様と恋人は、うまくいったのかな』
「ーーーーさあな。神と違って蛍同様、人の命は短いからなぁ」
ーーーーその夜、静かな夢を見た。
それはたぶん、キヨから流れてくる記憶ーーーー…。
触れ合い、笑い合い、同じものを見て、感じていた幸せな日々ーーーー…。
「…だ。どこに行ったんだ!?出てきてくれ。隠れているのか!?ホタル!見えない、出てきてくれホタル。そばにーーーー…」
手を伸ばせば届くほどの距離にいても、彼にその姿が映ることはなかった。
「……出てきてくれ。おれのこと、嫌いになったかい?」
どれだけの季節が巡ろうと、姿も声も温もりも届かなかった。
「キ………キヨ。好キヨ。好キ。好き。好きよ」
聞いて。
好きよーーーー…。
『ーーーー…キヨ…?』
深夜。夢を見た雪野が目を覚ますと、淡い光は部屋のどこにもなかった。部屋を出て、家中を探すも見つからない。
『…貴志君、ちょっといい?』
声をかけて、そっと障子をあけて目を丸くさせる。
『(いない!?)』
布団はもぬけの殻だし、窓も少し開いている。玄関まで行くと、靴が一足なくなっていた。
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