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「ーーーーあいつは……あの人は、章文さんっていうんだ。はじめて出会ったのは、あの蛍の沼」
暇潰しに釣りをしながら、キヨの話を聞く。
「妖を見るから家族からも周りからも奇異の目で見られて、あの人がひとり沼に泣きに来る姿をそっと隠れていつも見ていた」
だがある日夜中にやってきて、あせって隠れるもキヨの体は闇に光りすぐさま見つかった。
ーーーー「お前、人の子だろ?私は人間に興味があるんだ。少し話さないか?」
ーーーー「俺は妖なんかに興味はない」
しかし、次の日も章文は来た。
「私達は色々話した。いっぱいいっぱい話して、時々一緒に遊びに行って、触って……でもある日、あの人の目は私をうつさなくなった。私が触れても気付かなくなった。あの人は沼に来て私を何度も呼んだけど、目の前に立つ私が見えなかった。それっきりだーーーーお前達もいつか、見えなくなるだろうか」
そんなキヨの言葉に、夏目も雪野も答えられなかった。
ーーーーいつの日か、そんな日が来たら…。
『(ーーーーウレシイ…)』
授業中。窓の外を眺めながら考えていた雪野は、複雑そうに唸った。
『(嬉しい、はず…なのに…)』
妖や、人との出会い…そして、家族を思い出して、小さくため息。
『(すっごく、複雑…)』
ーーーー淡く光るキヨの姿が、もう章文さんの目には見えない。それなのになぜ、章文さんはあの場所へ行くのか。知りたいと思った。もう問うことが出来ないキヨに。
「…そうか…君達も妖が見えるのか…」
「ーーーーはい。最近会った妖に、あなたも妖を見ていたと…」
「そうか…」
広場のベンチに、夏目と雪野は章文と腰を並べて座っていた。知りたいと思ったら、直接本人に聞くしかない。話をすると、章文は嫌な顔一つせず話を聞いてくれた。
「…そうかぁ。今となっては、何もかも夢のようだ」
見つめる夏目と雪野に、章文は俯けていた顔を上げた。
「つらいかい?」
肯定も、否定もせず二人は目を伏せた。
「僕はつらかったよ。いつもひとりだったから」
微笑みながら章文はあやすように、二人の頭を撫でてやる。
「でもね、一人の妖と仲良くなってね」
すぐに、キヨのことだとわかった。
「好きになった。言えなかったけれどら愛していたんだ」
ほんの少し、雪野は息を飲んだ。
「ーーーーそれがある日突然、妖のことがまったく見えなくなってしまって。それっきりだった。それからはーーーー何人かの女性とつきあったけど、あの子のことが忘れられず、今まで結婚もせずにいたけれどーーーーやっと…心から愛することが出来る女性に会えた。心優しい女性に」
嬉しそうに笑った章文を、夏目も雪野も目をそらさず見つめた。
「三日後に式を挙げるんだ。結婚したら、もう、あの沼へは行かない」
「章文さーん」
女性の声に顔を上げると、章文と同年代らしい一人の女性が手を振っていた。目もとには優しい笑い皺のある、あわく咲く花のような女性と、章文は帰っていった。
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