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6


「ーーーーあいつは……あの人は、章文さんっていうんだ。はじめて出会ったのは、あの蛍の沼」



暇潰しに釣りをしながら、キヨの話を聞く。



「妖を見るから家族からも周りからも奇異の目で見られて、あの人がひとり沼に泣きに来る姿をそっと隠れていつも見ていた」



だがある日夜中にやってきて、あせって隠れるもキヨの体は闇に光りすぐさま見つかった。

ーーーー「お前、人の子だろ?私は人間に興味があるんだ。少し話さないか?」

ーーーー「俺は妖なんかに興味はない」

しかし、次の日も章文は来た。



「私達は色々話した。いっぱいいっぱい話して、時々一緒に遊びに行って、触って……でもある日、あの人の目は私をうつさなくなった。私が触れても気付かなくなった。あの人は沼に来て私を何度も呼んだけど、目の前に立つ私が見えなかった。それっきりだーーーーお前達もいつか、見えなくなるだろうか」



そんなキヨの言葉に、夏目も雪野も答えられなかった。

ーーーーいつの日か、そんな日が来たら…。



『(ーーーーウレシイ…)』



授業中。窓の外を眺めながら考えていた雪野は、複雑そうに唸った。



『(嬉しい、はず…なのに…)』



妖や、人との出会い…そして、家族を思い出して、小さくため息。



『(すっごく、複雑…)』



ーーーー淡く光るキヨの姿が、もう章文さんの目には見えない。それなのになぜ、章文さんはあの場所へ行くのか。知りたいと思った。もう問うことが出来ないキヨに。



「…そうか…君達も妖が見えるのか…」

「ーーーーはい。最近会った妖に、あなたも妖を見ていたと…」

「そうか…」



広場のベンチに、夏目と雪野は章文と腰を並べて座っていた。知りたいと思ったら、直接本人に聞くしかない。話をすると、章文は嫌な顔一つせず話を聞いてくれた。



「…そうかぁ。今となっては、何もかも夢のようだ」



見つめる夏目と雪野に、章文は俯けていた顔を上げた。



「つらいかい?」



肯定も、否定もせず二人は目を伏せた。



「僕はつらかったよ。いつもひとりだったから」



微笑みながら章文はあやすように、二人の頭を撫でてやる。



「でもね、一人の妖と仲良くなってね」



すぐに、キヨのことだとわかった。



「好きになった。言えなかったけれどら愛していたんだ」



ほんの少し、雪野は息を飲んだ。



「ーーーーそれがある日突然、妖のことがまったく見えなくなってしまって。それっきりだった。それからはーーーー何人かの女性とつきあったけど、あの子のことが忘れられず、今まで結婚もせずにいたけれどーーーーやっと…心から愛することが出来る女性に会えた。心優しい女性に」



嬉しそうに笑った章文を、夏目も雪野も目をそらさず見つめた。



「三日後に式を挙げるんだ。結婚したら、もう、あの沼へは行かない」

「章文さーん」



女性の声に顔を上げると、章文と同年代らしい一人の女性が手を振っていた。目もとには優しい笑い皺のある、あわく咲く花のような女性と、章文は帰っていった。




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