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茂みの向こうに、広がる沼を見つけた。
「本当だ、こんな所に沼が。水もきれいじゃないか」
「…む?しかし、妙に静かだな」
くんくんと、雪野の腕に抱かれる斑は鼻を動かす。
「ーーーーそういえば…こんな森の奥で生気があまり感じられないなんて、この沼一体ーーーー…あ」
木々の隙間に、夏目は見つけた。倒れる膝から下の人間の足が、見えたのだ。
「『!?(死体!?)』」
気づいた雪野も驚愕して顔を青ざめる。
ーーーーむくっ.
「『わーーーーっっ』」
「……やあ。君たちも蛍を見に?」
突然、前触れなく起き上がった死体…かと思いきや、死体ではなく生きた人で、思わず悲鳴をあげてしまった二人は少し気まずい。
「す、すみません、大声出して…」
何だ昼寝か、と内心夏目は安堵する。
『えっと、蛍…いますか?』
「はは。蛍には時間的にも時期的にもまだ少し早いみたいだ。最近じゃ、そもそも減ったみたいだけどね」
「ありがとうございますーーーー…」
過ぎ去る男性の肩に、髪の長い女の顔が見えた。
ーーーーぞ…
不気味さに寒気を感じつつ、なんだろうかと目で追ってしまう。そして、女の顔にある面は、読めないが見慣れた筆記。
「妖か」
「ーーーーお前…」
思わず呟いた夏目の声は、妖に届いていた。
「お前達、人の子のくせに見えるのか?」
「『!!』」
男性から離れた妖の手が、夏目へと伸びた。すぐさま二人は背を向け走り出したが、妖は二人を追いかける。
ーーーーズルッ.
「!!」
『貴志君!』
後ろを気にしながら走っていたものだから、夏目は崖に気づかず足を滑らせた。
ーーーーがくんっ.
「やれやれ、あぶなっかしい人の子だ」
落ちる前に、夏目を助けたのは追いかけていた妖。助けてくれたらしい妖に、警戒心は薄れた。
「ーーーーありがとう、助かった」
「構わんさ。まぁ酒の一杯でも出してくれれば、祟りはしないさ小僧」
「(う…何てヤクザな)」
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