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「この地方では招き猫に妖を封じるのが流行ったんだろうか…」
『……』
「…雪野?どうした?」
『ん…赤くて高い塀の近くにある家が、封印の場所だったよね』
ああ、と夏目は頷くと察した。
「心当たりが?」
『妖から逃げてる時に縄を切ったの。もしかしたらあれが結界で…』
「動けるようになった主様は、この森に帰って来たのかーーーー…皆に早く知らせよう」
「猫の姿では皆主様とは信じない。私のように感じとれる高等な妖はそうおりませんし」
「そんな…」
『どうすれば元に…』
むにーと、雪野は途方に暮れ黒ニャンコの頬を掴む。
「ーーーーおや、そういえば」
思い出したように紅峰が口を開く。
「主様は確か、レイコに名を奪われたことがありました」
「ーーーーえ」
目を瞬かせて、雪野は手元の友人帳を見下ろす。
「そうか。名を奪われている分殻を破るのに力が足りんのかもしれないな」
「じゃあ、名を返せば元の姿に戻るかもしれないんだな?」
触れる手に、黒ニャンコは顔を上げた。
「主様、名を返します。だから、どうか皆を止めるのに力を貸してください」
『お願いします主様。私たちに出来ることなら何でもします。だからーーーー』
じっと、表情を変えないままだが、黒ニャンコは二人を見つめ返していた。
「しかしどう返す?依代の姿では、友人帳は名を検索してくれない」
「本当の名がわかれば…」
『紅峰さんは知らないんですか?』
「残念ながら私は通称の「主様」しか」
「あの中に知ってる妖がいるかもしれないな」
「皆の者行くぞ」
妖達をまとめ上げていた妖の声が響いた。
「おいお前ら、こんな茂みで何をしておる」
夏目達に気づいた、今回のリーダー格のあの妖が覗き込む。
「!行くって、人を襲いにか。その必要はないんだ。主様はここに帰ってきている」
「何ぃ!?」
「ーーーー誰か、「主様」の名を知らないか」
『名前さえわかれば…!』
「主ら、人の子だな!?」
ズレた面に、夏目と雪野の正体がバレた。
「それに、その面」
「おのれ人の子」
「!そいつらを放せ」
「うるさい!!さがっておれ」
ーーーーばしんっ.
「ぎゃっ」
「斑さま!」
騒ぎに気づき、集まり出した妖達にもみくちゃにされ始めた二人を見て斑が飛び出すが、弾き飛ばされてしまった。
「人の子だ」
「人の子」
「人の子だ、おのれ」
ーーーー…逃げるな…!!いるハズだ。主様の名を知る妖がーーーー…。
「おのれ、喰ってやる」
人の子め。
おのれ。
人の子め。
主様を。
よくも。
主様がいれば。
ーーーー…様がいればーーーー…。
『ーーーー!先生!!』
ピクッと、斑はその声に反応して目を覚ます。
「夏目を、放せ!!」
「ぎゃあっ」
本来の姿に戻った斑を弾き飛ばせるハズもなく、夏目に群がっていた妖達は一斉に手を離した。
「斑さま…」
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