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「とりあえず、夏目の若さんと鈴木のお嬢さんは化粧か面を。斑の旦那は獣の姿ではいけませんよ」
「む?」
「獣を連れたレイコ似の少年とミヨ似の少女の二人組が、「友人帳」を持っているらしいと噂なのです」
『噂…』
「ええ。何せ、妖にとって有名ですからね、「夏目レイコ」も「鈴木ミヨ」も」
『ねえ…ミヨさんって、どんな人なの?』
「…急になんだよ」
『押し入れ…整理してたら、日記が出てきたの…晴れてた、とか、妖にまた勝った、とか…一文だけだけど』
「妖?意味のわからん…そんなもの捨てろ」
『捨てろって、おばあちゃんの遺品だよ?』
「祖母と言っても僕は知らないし、父さんだって覚えてない。そんな、現実逃避ばかりしていた人の日記なんて気持ち悪い」
『(血縁者の私よりも…)』
妖達の方が、ずっと彼女を知っているのか…。
ほんの少し表情を暗くしながらも、雪野は受け取った面をつけて夏目達と共に会場へ。
「さあさあたんと飲んでくれ。よく集まった我が同輩達」
「紅峰、遅かったな。どこいってたんだ」
「野暮だね、化粧ですよ」
「おや、見かけぬ奴等だ」
「ああ。私の連れなんですよ」
「見ねぇ顔だな。さあさあ飲みねぇ」
目と書かれた面をつけた夏目と雪野の後ろには、肝試しの時と同じ人型に化けた猫の面をつけた斑の姿も。
「楽しそうなんで混ぜてもらうよ」
「おうおう飲みねぇ。ん?…お前達…」
くんくんと、匂いを嗅ぐ。
「ちょっと人間臭いな」
「『え…』」
ドキリと、少し身を固くする。
『えー…と…さっきまで、人里にいたから移ったかな…』
「ああ、多分そうだろう」
「主様を思い出す」
「「主様」?」
「人間びいきの主様か。家畜を襲うため人に化けた時、狐用の罠にはまってな。漁師の男に助けられて以来、人に化けてはそいつに会いに行ってたんじゃ」
「人の友人が出来たと言ってはしゃいでおった」
「力は強力だったが、ちっと頭の悪い方だったな。人と友人になれるなどと」
「そうじゃ主様はちょっと阿呆じゃった…まあ飲め」
「あ、ありがとう…」
『ねぇ、この辺で黒猫を見たモノはいない?』
「ああ、見たぞ」
「おれも」
「ほ、本当か」
「私も見たぞ、そこら辺で…」
「諸君!!」
響いた声に、意識が向けられた。
「そろそろ例のことについて話し合おうか」
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