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「むっ。やはりこやつ妖だな」
黒ニャンコの隣に並んだ斑が匂いを嗅ぐ。
「何だ。先生じゃなかったのか」
『紛らわしい』
「一目見ればわかるだろうが阿呆!」
しれっとした顔の二人に斑は怒鳴る。
「こんな頭でかい猫、そうそういないだろ。じゃあ先生に化けて来たってことかな、この黒ニャンコ…何の目的だろう」
「友人帳は無事だろうな」
『ん?大丈夫。ここにある…』
はっと問い質した斑に雪野が友人帳を見せた時だった。
ーーーーしゅっ.
素早い動きで友人帳を咥えて奪った黒ニャンコに、夏目、雪野、斑は硬直。
ーーーーひょっ.
軽々と、友人帳を咥えた黒ニャンコは窓の外へ。
「「『うっ、わああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!?』」」
我に返った三人の悲鳴があがる。ガラッと、顔を青ざめた夏目が上着を引っ掴み窓を開け放つ。
「わっ。阿呆夏目ここは二階…」
『貴志くん!』
慌てて雪野と斑も夏目の後を追い、森の中へ。
「…くそ、どこ行った黒ニャンコ。こっちの方に走るのを見たのに…」
「落ちつけ夏目。暗くちゃ黒いやつは見つけられん、出直すぞ」
『でも…友人帳が…』
「この森は瘴気に満ちている。人間のお前達が夜うろつくのは危険だ」
「もう少し、もう少し探させてくれ。妖達の大切な名を預かっているんだ」
息を切らせて、焦っている夏目は周りが見えていない様子。
「くそう黒ニャン…」
ーーーーゴッ.
「……」
「まあ落ちつけ。友人帳を捕られて腹立たしいところだが」
頭突きを喰らって多少冷静に戻った夏目。
「あの黒ニャンコからは悪意的なものは流れてこなかった。だから油断したのだが…とにかく、悪用が目的ではなさそうな気配だった。下手に騒いで「友人帳」が奪われたことを他に知られるほうがマズいことになるしな」
「ーーーー…けれど……ん」
ふと、夏目は木々の向こうに見つけた。
「何だろうあの光。上のほうの山道に」
「ん?」
『…灯り?』
ふわりふわりと、一列に火の玉が。
「狐火か」
「多いな。どこへ向かっているんだ?」
茂みに隠れてこっそりと伺う。
「む」
「どうした」
「人間の匂いがするような」
行列の中の妖の言葉に、はっとした斑は元の姿に変化すると、夏目と雪野の上に覆いかぶさった。
「!先生、重い」
「がまんしろ。妖の匂いでカモフラージュしてやってるんだ」
ひそひそと小声でやり取りする。
「おっと遅れる。気のせいか…むしろこの辺はケモノ臭い」
「ケッ、ケモノ臭いだと!?高貴で偉大なこの私を…!!」
「まあまあ、ケモノ臭のおかげでやりすごせたんだし」
『怒らない怒らない』
不愉快そうにする斑を二人でなだめる。
「むかしはよく「主様」が人の匂いをつけて帰ってきておったのう」
「そうだったな、人に化けては里で遊び、美味な土産をよく分けてくれておった」
「それを…おのれ、人間どもめ…」
「人間などと関わるとろくなことがない」
「そうだ……」
「『(「主様」…?)』」
耳に届いた、妖達の会話。その声は、徐々に遠ざかって行った。
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