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3
「七辻公園、行って来るけど…雪野も行くか?」
翌日、夏目は雪野にそう尋ねた。
『…行くの?なんか、意外というか…』
「…本当は色々、ききたいこととかやっぱり、あって…」
ぼんやりとそう呟いた夏目に、雪野は少し考えたがやはり首を横に振る。
『ーーーーいかない。私はいいよ…水かけちゃったし』
「ああ…まあ、そっか。それじゃ、行ってくる」
『いってらっしゃい』
見送り、部屋へと戻る。
『(あれ?先生いない…あ、ついていったのか)』
開け放たれた窓を見て納得。勝手に開けて…と、ため息しながら窓を閉める。
「雪野ちゃーん、七辻屋でお饅頭買ってきてくれないかしら?」
『はーい』
マフラーをしてお饅頭を買った帰り道、道端に縄を発見。
『(……この縄…………)』
「やめんか小娘」
ぐいぐいと、思わず引っ張っていると背後から怒りを滲ませた声が。
『あ、ごめん』
「…」
戻ってきたらしい妖と共に、なんとなく雪野は一緒に縄の先まで戻った。縄は、ある家の柱に釘で止められていた。
『この縄は誰が…?』
「ーーーー……あ、お前、わずかだがあの子のにおいがする」
『ーーーーあの子?』
答えない妖の空気に、何かあったのかは察した。
『ーーーー座って。その包帯、気になるから巻き直させてよ。済んだらもう無視してくれていいからさ』
妖の手を取り、雪野は解けかけている包帯を巻き直す。
「ーーーーどこぞの」
『え』
「昔、どこぞの祈祷師がこの縄を」
どうやら、先ほどの質問に答えているようだ。
「私は山守りをしていたが、捕まってあの柱に縛られた。この家と倉を守るよう命じられた。倉を開ける者がいたら、その者を祟るようにと」
『じゃあ、いつも…』
「最近倉を開けた者がいる。そのものを祟るため通っている。役目を果たさねばやがてこの縄がしまり、首がおちるようになっている」
『ーーーー…』
「昔は逃げようとしたがやがてあきらめた」
その証拠に、爪はわれており、柱にはたくさんのひっかいた跡が。
「あきらめて、ひとりぼぉっとそこに座っていた」
何年も。何年もーーーー…。
ーーーーねぇ、どうしたの?変なお面。手から血が出ているよ。
「あれは、人の子だった。お前のように私を見ることが出来た。その子がこれをまいてくれた」
静かな声で話す妖の話を、雪野はじっと聞く。
「ーーーー倉が開いた時、役目など果たさず、このまま首が落ちるのもいいと思った。何の未練もない」
『え』
「けれど縁とは面白いものだ。あの子が祓い人としてこの街へ帰ってきた」
目を見張る雪野の脳裏に、名取が思い浮かんだ。
「あの子になら払われてもいいと思った。あの子の手柄になるのは喜ばしい。異形とは面倒だね。こんな布きれ一枚の礼も、ろくに出来ない」
夕暮れに、包帯を見つめながら呟いた妖を、雪野はただただ見つめていた。
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