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歩く後ろを、名取がついてくる。しかも、注目あびまくり。
「…もっと離れて歩いてくださいよ」
「ん?何で?あ、二人きりになりたいとか?」
「…目立つの嫌なんです」
「きらめいててご免。話がしたいんだ。少しつきあってくれないかい?」
「『え』」
キラキラとした笑顔の申し出に、二人は渋い顔をした。
「こういう服似合いそうだ」
「そういうの好きじゃありません」
「たんとお食べ。食べないからそんなひょろいんだぞ。君も遠慮せず、さ!」
『はぁ…』
「食べてますよ。だいたいねぇ、何であなたにそこまで言われなきゃならないんですか」
「あ、ウグイス」
「ちがいますね。メジロですね」
ショッピングに焼肉に散歩。はっと、流されていた夏目は我に返る。
「だから用件は何なんです!」
「あ、そうだった」
近くの喫茶店で、本題に入る。
「君、本当に人だったんだね。気配が不思議だから、実は妖なんじゃないかと思ったよ。私、実はお祓い稼業もやっていてね、丁度助手が欲しかったんだ。君たちにとってもいい勉強になると思うんだが、どうだい一度」
「嫌ですよ」
「我が儘だなぁ。あ、金かい?金が欲しいのかい?」
「帰ります。」
「あはははは。冗談冗談、気が短いねぇ」
席を立っていた夏目は、雪野が名取から目を離さないことに気づく。何を見てるのかと視線を追うと、ヤモリの痣。
「ん?」
しゅるりと、痣が動いた。夏目もその痣は昨日のうちに見ていたが、動くのを見たのは初めてだ。
「入れ墨が…動いた…?」
「ーーーーああ、やっぱり。その子にも見えてたから、君にも見えるんじゃないかと思ったよ」
痣は、名取の頬に移動した。
「体中を動きまわるんだよ、この痣。幼い頃、踝あたりにヤモリの形の痣ができてね。次の日消えたと思ったら、左腕に移動していたんだ。気味悪くてね。どうも妖のようだし対処法を知ろうと、妖怪について色々調べるようになったんだ。独学だけどね」
「ーーーー体調に、影響は…?」
「あはは。特にないからかえって不気味でね。実は寿命を喰われてました、とかだったら困るんだよなぁ」
「笑いごとですか!!」
クスクスと笑う名取に、あまりの楽観ぶりに夏目は声を荒げる。
ーーーーこの人は……ずっとそんな不安と独りで戦ってーーーー…。
「主さま」
はっと、雪野は天井から顔を出す妖に気づく。
「何です?その生意気な餓鬼は」
ーーーーガシャン.
「!!」
『貴志くん!』
妖の髪が、夏目の手と首に絡みつく。騒ぎに店内の注目が集まった。
「あの…お客様、どうなさいました?」
「ーーーーっ!」
「貧血かな。すまないが水を」
「はいっ」
慌てる二人に対し、名取は素知らぬ顔で店員に言うとメガネをかけた。
「こらこら、勝手をするな。私の大切な友人だ。失礼は許さないぞ」
ムカッと、雪野は頬を赤くすると、テーブルからコップを掴み取り名取に水をぶっかけた。ばしゃりと、水をかぶった名取は目を丸くする。
『失礼はそっちよ!貴志くんを離して』
「この小娘っ」
妖の髪が雪野へと伸びた時だった。
ーーーーカッ.
「ぎゃ」
「!!」
伸びた髪も、夏目に絡まっていた髪も、光を浴びた途端離れていった。
「私の獲物に気安く声をかけるなガキが」
「『せんせ…!?』」
テーブルの上には、いつの間にか斑の姿。
「そ…その珍妙な生き物は…?」
「あっ、お客様。猫ちゃんの連れ込みは困ります」
「『はっ』」
瞬時に、帰り支度。
「す、すみませんじゃあおれ達はこれでっ」
「あっ…待…明日、明日また、七辻公園で待ってる」
逃げるようにその場を去る二人の背中に、名取はそう叫んだ。
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