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「ーーーーいやいやお見事、夏目殿。鈴木殿」



一陣の風が吹き抜けると、声と共に三篠が現れた。



「ふふ、お二人を試させて頂いた。人の子などに、私の名と友人帳を預けておいて良いものなのかを」

「ーーーー試す?」

「カエルを使って奴の所へ誘導したのは私ですよ」

「三篠お前」



斑とヒノエが三篠を睨む。



「奴に喰われる程度ならそれまでだし、何も出来ない奴に預ける義理はない。そのまま「友人帳」は私が頂こうと」

「判定は?」



怒りも見せず、夏目は問いかけた。



「二人とも相応しくない。しかし、二人とも気に入った。恩をうっておいたほうが面白そうだ」



頭を低くして、三篠は夏目と雪野と目を合わせる。



「これも何かの縁だろう。今しばらくは名を預けましょう。入り用な時は呼ばれよ。名を呼ばれるのは嫌いじゃない」

「『ありがとう』」



三篠の心を少しでも感じ取れた気がした二人は、礼を言って別れると帰るべく山をおりた。



「貴志君!!」



洗濯物を取り込んでたらしい塔子が、夏目を見つけると眉を吊り上げた。



「どこ行ってたの!連絡先おしえてってあんなに言ったのに」

「す、すみません、あの…」

「ちょっとこちらにいらっしゃい。一体どれほど心配したと思っているの!?」

「その…」

「おすわりなさい!!まったく、もしものことがあったらどうするの!!」

「す、すみません」



お説教を受ける夏目に、雪野と斑は巻き込まれないようにと別室で大人しくしていた。



「タ、タカシ君!?」



塔子の驚く声に顔を上げる。お説教中に夏目は風邪を引き気を失ったのだ。

兎にも角にも、こうしてメリーさん事件は片付いた。



「ーーーーと、いうわけで」



家に、ヒノエがやって来た。



「私も雪野はもちろん、夏目にもたまには呼ばれてやっても良い」

『それはどうも』

「ゴホ、ゴホ…ありがとう」

「何しに来たんだヒノエ」

「おやおや、カゼをおひきかい?雪野、夏目、人間に飽きたらいつでも私のところにおいで」



慣れてきたのか、愛でるように抱きしめるヒノエに雪野は笑顔を返すのみだった。



「…男はきらいなんだろう?」

「しかし夏目は何か嫌いじゃない。男と思わなければどうということはない」

「そういう問題か!?」



ぐっと拳を握ったヒノエに斑が青筋を浮かせる。



「帰れ、この色ボケ妖怪っっ。私のナワバリだっっ」

「つぶれ大福は黙っておれ」

「わかめ頭め、むしってくれる」

「うう…」



病人の横で騒ぐのがいけなかった。



「寝かせてくれ」



ポイ、と、斑とヒノエの二人は外へと追い出された。呆れたように雪野はそれを見送った。



「なあ、雪野」



何かと雪野は夏目を見下ろす。



「北本達と、双葉ダムに紅葉を観に行くって…お前と、それから…塔子さんに、おべんとうを」

『塔子さんには、カゼが治ったら自分で頼んでみるといいよーーーーきっと、喜ぶから』

「…気が向いたら、皆と紅葉を観にいこうか」



ふ、と笑った夏目に、雪野は笑って頷いた。



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