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8
「ーーーーいやいやお見事、夏目殿。鈴木殿」
一陣の風が吹き抜けると、声と共に三篠が現れた。
「ふふ、お二人を試させて頂いた。人の子などに、私の名と友人帳を預けておいて良いものなのかを」
「ーーーー試す?」
「カエルを使って奴の所へ誘導したのは私ですよ」
「三篠お前」
斑とヒノエが三篠を睨む。
「奴に喰われる程度ならそれまでだし、何も出来ない奴に預ける義理はない。そのまま「友人帳」は私が頂こうと」
「判定は?」
怒りも見せず、夏目は問いかけた。
「二人とも相応しくない。しかし、二人とも気に入った。恩をうっておいたほうが面白そうだ」
頭を低くして、三篠は夏目と雪野と目を合わせる。
「これも何かの縁だろう。今しばらくは名を預けましょう。入り用な時は呼ばれよ。名を呼ばれるのは嫌いじゃない」
「『ありがとう』」
三篠の心を少しでも感じ取れた気がした二人は、礼を言って別れると帰るべく山をおりた。
「貴志君!!」
洗濯物を取り込んでたらしい塔子が、夏目を見つけると眉を吊り上げた。
「どこ行ってたの!連絡先おしえてってあんなに言ったのに」
「す、すみません、あの…」
「ちょっとこちらにいらっしゃい。一体どれほど心配したと思っているの!?」
「その…」
「おすわりなさい!!まったく、もしものことがあったらどうするの!!」
「す、すみません」
お説教を受ける夏目に、雪野と斑は巻き込まれないようにと別室で大人しくしていた。
「タ、タカシ君!?」
塔子の驚く声に顔を上げる。お説教中に夏目は風邪を引き気を失ったのだ。
兎にも角にも、こうしてメリーさん事件は片付いた。
「ーーーーと、いうわけで」
家に、ヒノエがやって来た。
「私も雪野はもちろん、夏目にもたまには呼ばれてやっても良い」
『それはどうも』
「ゴホ、ゴホ…ありがとう」
「何しに来たんだヒノエ」
「おやおや、カゼをおひきかい?雪野、夏目、人間に飽きたらいつでも私のところにおいで」
慣れてきたのか、愛でるように抱きしめるヒノエに雪野は笑顔を返すのみだった。
「…男はきらいなんだろう?」
「しかし夏目は何か嫌いじゃない。男と思わなければどうということはない」
「そういう問題か!?」
ぐっと拳を握ったヒノエに斑が青筋を浮かせる。
「帰れ、この色ボケ妖怪っっ。私のナワバリだっっ」
「つぶれ大福は黙っておれ」
「わかめ頭め、むしってくれる」
「うう…」
病人の横で騒ぐのがいけなかった。
「寝かせてくれ」
ポイ、と、斑とヒノエの二人は外へと追い出された。呆れたように雪野はそれを見送った。
「なあ、雪野」
何かと雪野は夏目を見下ろす。
「北本達と、双葉ダムに紅葉を観に行くって…お前と、それから…塔子さんに、おべんとうを」
『塔子さんには、カゼが治ったら自分で頼んでみるといいよーーーーきっと、喜ぶから』
「…気が向いたら、皆と紅葉を観にいこうか」
ふ、と笑った夏目に、雪野は笑って頷いた。
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