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6
塔子と夕食の準備をしていた雪野は、時刻を確認した。
『貴志くん、遅いですね』
「あら、聞いてなかった?貴志君、三連休だからお友達のところに泊まるそうよ」
『え!?』
目を瞬かせる雪野。
『(あんな状態で呑気にお泊りって…)』
「連絡先を教えてって言ってあるから、もし電話があったら教えてね」
『はい』
笑顔で頷き、夕食を食べ終えた雪野は夏目の部屋をそっと開けた。
『先生ー…』
返事もなく、部屋の中は薄暗く誰の姿もない。
『(…本当に、泊りなの?)』
目を伏せて、今朝の夏目の様子を思い出す。
もやっとしたまま、休日を迎えた午後。そわそわと電話の前にいる塔子に雪野は気づく。
『貴志くん待ちですか?』
「え!?ええ…鬱陶しいかしら。もう小さな子供じゃないのに」
『そんなことないですよ…心配してくれてるって、貴志くんもわかってますから』
ふふ、と苦笑する塔子に、雪野は微笑んで言うも、ちらりと電話を見つめた。
『(貴志くんが連絡しないなんて、珍しい)』
影も、夏目がいなくなって家から消えており、夏目を追いかけたようだ。
ーーーーコンコン.
部屋に戻った雪野は、窓を叩く音に顔を上げると、目を丸くさせた。窓の外にいたのは、ヒノエだった。
ヒノエに案内されて来た山。そこには、夏目が寝ていた。よく見ると傍らにはちっちゃいままの斑も寝ている。
『貴志くん…こんな所にいたんだ』
目を瞬かせて、眠る夏目を雪野は見下ろす。
「夏目は大嘘つき者のようだね。印主のことも、影のことも、ここにいることも、お前には説明しただなんて」
『…心配かけたくなかったんだよ。そういう人だから、貴志くん…』
「それで納得するのかい?」
『………貴志くん大丈夫なの?顔色、すっごく悪い』
「あと二日間逃げ切れさえすれば大丈夫さ。まあ、この体力でいつまで持つかわからんが」
顔色悪く寝息を立てる夏目に、雪野は眉を下げた。
『ねえ、他に貴志くんを助ける方法はない?』
ヒノエに見送られながら家へと変える途中、雪野はヒノエに尋ねた。
「影に触れられないよう逃げる…他に方法はないよ。もっと強く三篠殿にでも命令すれば、用心棒に出来るけどね。それならあいつも助かるだろう」
『命令とか、そういうのは出来るだけしたくない。契約したのはミヨさん達だし…命令よりも、お願いがいい。貴志くんだって、だから一人でどうにかしようとしてるんでしょ』
「妖相手に甘ちゃんなことを考えるね…ミヨとは大違いだーーーーでは、今回限りの式を、あいつにつけて護らせるというのはどうだ」
『え』
「影を祓える系譜の者の呼び出し方を教えてやるよ。きついけどやるかい?」
煙管の煙を吐きながら言ったヒノエに、雪野は微笑み頷いた。
『ありがとうヒノエ』
「…ああ、ミヨ!!」
『……』
抱きついたヒノエに雪野はもう何も言わず受け入れる姿勢だった。
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