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3
ふっ、と風が巻き上がる。友人帳のページがぱらぱらと煽られた直後、雪野の背後に大きな気配が舞い降りた。
「三篠、参りました。これはこれは鈴木殿、夏目殿、お久しぶりでございますな」
『…名を返しそびれてごめん。力をかしてほしいことがあるの、もう少しつきあって』
「ふふ、よろしいでしょう。先刻私のカエルが助けて頂いたようで」
『カエル?』
「…ああ、あれあなたの子分だったのか…」
クモの巣から助け出してやったカエルを夏目は思い出し、包帯で隠していたアザを見せる。
「成程、大杉に縛られた妖に印をつけられたか」
「ーーーーあ?さっきより印が広がってる気がする」
「おや。これはまずい、「五日印」」
印を見て三篠は軽い調子のままそう続けた。
「私は呪いに詳しくはございませぬ。代わりの者をよこしましょう」
「助かる」
「しかし夏目殿。妖に弱い心を見せてはなりませぬよ」
「ーーーー…何です?」
妖は、人の心の弱さや影を映す。
「さみしさを、妖で埋めあわせておいでで?」
無意識に、夏目は印のある腕を握り締めた。
「ふふ」
「三篠、主にいい態度だな。あまり調子にのるなよ」
「そのような印をつけさせておいて、よく言うよ斑。用心棒がきいてあきれる」
「何!?」
「夏目殿、鈴木殿、そんな猫だるま、見限られたらいつでも申されよ。私がお護りしても良い。友人帳とひきかえならば」
「誰が猫だるまだと木馬野郎ー!!」
「では、「ヒノエ」を呼んで参りましょう」
斑の怒りなど無視して、三篠はどろんと姿を消した。
「なにー!?ヒノエだとー!?」
「知ってるのか先生」
「ああ!あいつはレイコと…」
斑が話してる最中に、風が吹き、しゃんと鈴のような音が響いた。
「!来る!」
斑がそう言った時だった。
「…イコ、ミヨ。ああ、やっと我を呼んだか」
しゃん、と、大きく音が鳴った。
「おお、麗しのレイコ!!ミヨ!!」
夏目と雪野の前に、ふわりと髪の長い女性が歓喜して現れた。
「レイコ!おお、あいかわらずその蔑むような瞳!うすら笑いが似合う唇!!おや、何だいまた人間共に嫌がらせされたのかい?どうしたのだその髪は。あな口惜しや人間共。お前に触れる者は皆、このヒノエが祟り殺してくれようか………む?胸がない……」
夏目が突然の妖のセクハラに圧倒されドン引きして硬直していると、ヒノエははっと我に返る。
「おとこーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!?」
「奴は重度のレイコ好きだ」
「ま、まさか…ミヨ!?ミヨはどうした!?」
ヒイ、と雪野はヒノエと目が合い身を引くが捕まる。
「ミヨ!!ああ、良かった胸がある。お前はお前なんだな。その死人のような青白い顔!冷たい体温!ああ、ああ!!私のミヨだ!気色の悪いもんに抱きついてしまった私の体を癒しておくれ!!」
「そして男嫌いで、重度のミヨ好きだ」
「む、その声は斑か!?……?………ぷっ」
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