7
「よし」
真っ白な布に「目」と書いた妖怪は、その布を夏目の目元を隠すように結びつけた。
「墨に私の血を混ぜたので、これで妖怪達はあなたを人だと気付かない。布がずれるとばれて喰われてしまいますよ、ご用心を。飛び入り歓迎、妨害行為もオッケーで、妖力を使わずあの杉の上の浴衣に一番早く触れた者が優勝です」
「……なぜ、こんなふうに手伝って?」
「面白そうだからですよ、食べてしまうよりね」
その時、地響きに似た低い太鼓の音が鳴り響いた。
「あ、はじまりますよ。いってらっしゃい」
「ーーーーお前もやっぱり、この村に残るのか?沈んでしまうのに」
「何者にでも離れ難いものはあるのさ」
「ーーーーそうか。ありがとう垂申」
参加する妖怪達に混じって、夏目もその中に消えた。
「ふふ。さすがに少し夏目レイコに似ておられますね。レイコとはこんなに話をしたことなどございませんが」
『…そういう、ものなの?』
「ええ。ミヨだって、名を奪ったその日以来会うことなどありませんでした」
「……」
また、太鼓の音が響く。直後ワッと声が上がり、妖怪達が走り出した。
「おー、はじまりましたな。しかしあんな短い手足でもののけに勝てるわけがないでしょうに」
「まったくだ。馬鹿でかなわん」
『先生』
期待するように見下ろす雪野を、斑は何も言わず見つめ返すと再び、必死に走る夏目へと顔を戻した。我先にと駆ける妖怪達に、夏目の存在を隠す布がズレてしまう。
「!」
瞬時に人だとバレた夏目を、周りの妖怪達が浴衣もそっちのけで襲い出した。
ーーーーどろん.
目を見開く雪野の隣で、斑が変化する。
「蹴散らすぞ夏目!こい!!」
その声に、夏目は手を伸ばした。
▼ ◎