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「よし」



真っ白な布に「目」と書いた妖怪は、その布を夏目の目元を隠すように結びつけた。



「墨に私の血を混ぜたので、これで妖怪達はあなたを人だと気付かない。布がずれるとばれて喰われてしまいますよ、ご用心を。飛び入り歓迎、妨害行為もオッケーで、妖力を使わずあの杉の上の浴衣に一番早く触れた者が優勝です」

「……なぜ、こんなふうに手伝って?」

「面白そうだからですよ、食べてしまうよりね」



その時、地響きに似た低い太鼓の音が鳴り響いた。



「あ、はじまりますよ。いってらっしゃい」

「ーーーーお前もやっぱり、この村に残るのか?沈んでしまうのに」

「何者にでも離れ難いものはあるのさ」

「ーーーーそうか。ありがとう垂申」



参加する妖怪達に混じって、夏目もその中に消えた。



「ふふ。さすがに少し夏目レイコに似ておられますね。レイコとはこんなに話をしたことなどございませんが」

『…そういう、ものなの?』

「ええ。ミヨだって、名を奪ったその日以来会うことなどありませんでした」

「……」



また、太鼓の音が響く。直後ワッと声が上がり、妖怪達が走り出した。



「おー、はじまりましたな。しかしあんな短い手足でもののけに勝てるわけがないでしょうに」

「まったくだ。馬鹿でかなわん」

『先生』



期待するように見下ろす雪野を、斑は何も言わず見つめ返すと再び、必死に走る夏目へと顔を戻した。我先にと駆ける妖怪達に、夏目の存在を隠す布がズレてしまう。



「!」



瞬時に人だとバレた夏目を、周りの妖怪達が浴衣もそっちのけで襲い出した。

ーーーーどろん.

目を見開く雪野の隣で、斑が変化する。



「蹴散らすぞ夏目!こい!!」



その声に、夏目は手を伸ばした。



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