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「鈴木様、今日はもう休ませて頂きます。ありがとうございました」
燕は力の弱い妖怪のようで長くは姿を保てず、どこかの影で眠ることが多くなっていた。
『うん。明日は貴志くんが付き添ってくれるから…おやすみ、燕』
「おやすみなさい」
姿を消した燕に雪野も帰ろうと歩き出す。森の入り口に差し掛かったところで、雪野は走ってくる二つの影に足を止めた。
『貴志くん?』
「!雪野」
魔境を持っていたあの妖怪に手を引かれる様にして現れた夏目に雪野は目を瞬かせる。
『どうして二人が…どこに行くの?』
「ふたば祭り」
「丁度よかった。よろしかったら鈴木殿もご一緒にいかがです?」
誘う妖怪に、雪野は不安そうな表情を浮かべ夏目を見た。
『貴志くん、行くの?』
「祭り自体には興味ないけど、その祭りに、人間の姿になれる浴衣があるらしいんだ」
『……え?』
燕の姿が思い浮かび、夏目がこうして祭りに向かうのにも雪野は納得した。
『…私も行く!』
妖怪を先頭に、森の中を急ぎ足に駆けていた夏目と雪野。その姿を、通りがかった斑が見つけた。
「どこへ行く夏目」
「ふたば祭り」
「何!?」
「チッ」
夏目の返答に耳を疑った斑も、舌打ちした妖怪もどろんと変化した。
「あんな妖怪達の祭りに行ったらお前達など喰われるぞ」
「『え』」
「むっ。お主、斑か!?邪魔をするな」
「こいつらを連れて行って皆で酒の肴にする気だな!?」
「人を喰って何が悪い!人間に関わって腑抜けたか斑、情を移すとは」
「こいつらを喰うのは私だ!!こいつらとはそういう約束だ阿呆」
「そんな約束してないぞ」
『阿呆は先生だよ』
勝手なことを言う斑に夏目と雪野は怒りをおぼえるが、今はそれどころではない。
「けれど、浴衣の話は嘘ではないのだろう!?肴になるつもりはないが、その浴衣には興味がある。先生、連れていってくれないか」
「何だとぉ?お前また面倒なことを」
「……あんな下級の為に?あなた方に利など何もありませんよ夏目様、鈴木様。なぜそんな馬鹿馬鹿しいことを!」
なぜーーーー…。
「ーーーー情が移ったからさ。友人の為に動いて何が悪い」
真っ直ぐに見つめる夏目と雪野を、妖怪も同じ様に見つめ返していた。
「馬鹿め、馬鹿ったれめ。だからガキは好かんのだー!!面倒ばかり!!」
「うるさい!!」
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