×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





「鈴木、ホレ」

『?』



学校の休み時間。北本が手渡したのはメモ。きょとんとする雪野や夏目に北本は笑う。



「谷尾崎さんの住所」

「『!』」



ありがとう!!

嬉しそうにお礼を述べると、学校が休みのその日、早速その住所を尋ねることに。



「で」



くるりと、夏目と雪野は振り向く。ついて来ているのは斑と、名を返し終えたあの、魔境を持っていた妖怪。



「なぜお前らまでついてくる」

「面白そうだから」

「あのなぁ」

「あ」

『どうした?』

「あの人の匂いがする。近い」



そう言って、燕は走り出した。



「いいのか夏目」

「え」

「奴は「逢いたい人間がいる」とは言ったが、それが好意からだとは限らんぞ。祟ろうと思っている相手かもしれんだろ」



はっと、夏目と雪野は目を見開く。



「燕、待て」



思わず、慌てて止めるべく夏目は燕の着物の裾を踏んだ。真っ直ぐ綺麗に地面にダイブした燕は、ゆらりと斑に殺気を向ける。



「……おのれタヌキだるま。じゃまするな」

「やるかこのB級妖怪」

「燕、とにかくなぜ逢いたいのか、話してみてくれないか?」



斑の言葉を聞いては、何も聞かずに逢わせるわけにいかない。詳しく話を聞くことにした。



「私は遠い遠い昔、鳥の雛でしたがある日、巣から落ちてしまいました。それを人間が拾って、巣へ戻してくれたのです。けれど、私にはすっかり「人の匂い」がついてしまっていて、親鳥は巣ごと雛達を放棄してしまいました。飛ぶことも出来ず、きょうだい達の命が次々と消えていき、私だけが最後まで生き残ってしまいました。悲しくて悲しくて、気がついたらもののけとなっておりました」



そんな経緯があったのかと、二人は燕を凝視する。



「けれどある日、繁みの中で悪鬼となり、動けなくなった私にエサをおいていく人間があらわれました。それは毎日、毎日。妖怪を見る力はないようでしたが、闇に目だけ光って見える私を、野良犬だとでもまちがえたのでしょう」



その証拠に、来るたびにおーい、ワンちゃんと、呼んでいたそうな。



「それでも私は彼が運ぶ人の匂いに、拾ってくれた者のあたたかさを思い出して。村が沈んだ時、心静かに眠れたのは、あの人のおかげなのです」



面により、顔の半分は隠されてしまっているが、口元と雰囲気で、穏やかに微笑んでいるのはわかった。



「あ」



嬉しそうな声を上げた燕が走り出した方向を目で追いかける。中年程の男性が、スーツ姿で通りがかった。谷尾崎のようで、燕は嬉しそうに何やら話しかけているようだが、その声も、姿も、谷尾崎が気づくことはない。

それでも、燕は悲しそうな顔一つせず話しかけ続け、去っていく谷尾崎の背中を、見えなくなるまで見送っていた。



「…どうして見えないんだろうな」



隣からの夏目の声に、燕から雪野は視線を移す。



「…どうして、おれは見えてしまうんだろう」



独り言のような呟きに、雪野は同感のように、複雑そうな顔をして、また、燕へと視線を向けていた。


prev next