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こうして、夏目は妙な妖怪に取り憑かれることとなった。
授業中も、休み時間も、登下校中も。
「しかし見事な寸胴だな。どういうセンスをしているんだ?」
「おかしな面をつけてるお前に言われたくないわ」
就寝時間も、常にそばにいた。
「ええい、うっとうしい!!探すの手伝ってやるから相手のことを教えろ!!」
我慢ならず、結局は手伝う事となり、勿論、雪野も手伝う事に。
「顔を見ればわかるのですが、詳しくはわからないのです。わかっていることといえば、二葉村に住んでいた「谷尾崎」という名の男だったことくらいです」
「二葉村って、お前が住んでるダム底に沈んでた村のことか?」
「はい」
「じゃあ二葉村から引っ越した、谷尾崎って人を探せばいいのか」
『…あ。村が沈んだのは何年前?』
「二十年前です。当時二十代だった人なので、今は四十代でしょう」
「に…二十年前か……」
なかなかの年月と情報の少なさに、夏目と雪野は顔を見合わせた。
…これは、長期戦覚悟かーーーー?
「いつになったらねむれるんだ……」
『だね…』
「どうしたー二人ともー」
なんでもないと北本に答え、ため息をつきつつ夏目は冷たい缶ジュースに口をつけた。
「なぁ北本、二葉村って知ってるか?」
「ん?俺の父ちゃん二葉村の出身だけど?」
『ええ!?』
声を上げた雪野の隣でぶっ、と夏目はジュースを噴き出し、西村は何事かと驚く。
「二葉村の者はほとんどこの辺に越してきてるらしいぞ」
『あ、あの、谷尾崎さんって人とかわかる?その人も二葉村の人なんだけど』
「ああ、谷尾崎って名ならきいたことあるし、今夜きいてみるよ」
夏目と雪野の顔が、明るくなる。
「『ありがとう!!ありがとう!!!』」
「お、おう」
帰り道。学校からそのまま買い物を終えた雪野は、迎えに来た斑と合流した。
「夏目はどうした?」
『日直。多分、もうそろそろ来る頃じゃ……あ、ほら』
道の向こうから、夏目と妖怪らしき姿が近づいてきたので、雪野は手を振った。
「夏目、迎えに来てやったぞ」
夏目と妖怪は、よく見たら手を繋いでいた。
「…何やっとるんだお前ら。ガキか」
「うるさい」
その夜は、雨が降った。それを予言したらしい妖怪は、どうやら元は燕のようで。
すぐにあがってしまった雨は、ダムに水がもどる程ではなかった。
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